「外国人労働者の脱退一時金とはどういう制度なの」
「脱退一時金の申請はいつ、どのようにすればいいのだろうか」
このようなお悩みをお持ちの方もいるでしょう。
脱退一時金とは、日本で働いて10年以内に帰国する外国人に対し、納付済みの年金保険料を一部払い戻す仕組みです。外国人労働者の保険料に対する不安を解消し、安心して日本で働けるよう支援する狙いがあります。
本記事では、外国人労働者の脱退一時金制度の概要や受給要件、計算方法、必要書類などについて詳しく解説します。計算の具体例も紹介していますので、参考にしてみてください。
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- 雇用できる在留資格の確認方法
- 外国人雇用における注意点
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この記事の監修(株)アルフォース・ワン 代表取締役
山根 謙生(やまね けんしょう)
日本人・外国人含め全国で「300社・5,000件」以上の採用支援実績を持つ人材採用コンサルタント。監理団体(兼 登録支援機関)に所属し、技能実習生・特定技能外国人の採用にも取り組んでいる。外国人雇用労務士、外国人雇用管理主任者資格、採用定着士認定保有。(一社)外国人雇用協議会所属。
INDEX
外国人労働者の脱退一時金制度とは

脱退一時金制度とは、老齢年金の受給資格期間である10年を満たさずに帰国する外国人に対し、納付した年金保険料の一部を返金する制度です。
外国人労働者の多くは、帰国時に保険料が掛け捨てになることを懸念し、社会保険への加入をためらう傾向にあります。本制度は、こうした不安を解消し、日本での就労を支援するために設けられました。
制度について外国人に正しく伝えると、社会保険加入への抵抗感を和らげ、企業と労働者間のトラブル防止につながります。
脱退一時金の対象者
対象となるのは、日本国籍を持たず、公的年金の加入期間が6ヵ月以上ある外国人です。医療滞在ビザや長期観光ビザなどの住民票が作成されないビザは対象外となります。
自社で年金保険や脱退一時金の説明が難しいと判断した場合は、外部の支援機関を頼るのも1つの選択肢です。
特定技能1号外国人に対しては「登録支援機関」、技能実習生に対しては「監理団体」のサポートを受けるとわかりやすく伝えられます。
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脱退一時金の支給期間の上限は現状5年

脱退一時金の支給上限期間はもともと3年でしたが、2021年4月の法改正により現状の5年へと延長されました。
今後、技能実習に代わる新制度「育成就労」の導入に伴い、上限が8年に引き上げられる予定です。
8年とは、育成就労の3年と特定技能1号の5年を合算した年数です。
実態に即した改正により、外国人労働者が安心して働ける環境が整うでしょう。
【関連記事】
特定技能とは?1号・2号や技能実習制度の違い、受け入れ条件を解説
育成就労制度とは|いつから始まる?技能実習との違いや転籍の条件を徹底解説
脱退一時金の受給要件

脱退一時金を請求するには、いくつかの受給要件を満たす必要があり、国民年金と厚生年金保険で違いがあります。
それぞれの受給要件について解説していきます。
国民年金の受給要件
国民年金の脱退一時金を請求するには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
国民年金の受給要件
- 合計6ヵ月以上の保険料納付済期間等(※)の月数がある(保険料が未納となっている期間は除外)
- 日本国籍を有していない
- 老齢基礎年金の受給資格期間(10年間)を満たしていない
- 公的年金制度(国民年金・厚生年金)の被保険者ではない
- 障害基礎年金などの年金を受ける権利を有したことがない
- 日本国内に住所を有していない
- 公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない
(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)
(※)保険料納付期間等の月数の合計とは、以下の4点で計算した、第1号被保険者(任意加入被保険者含む)であった期間の合算月数です。
月数の計算
- 保険料納付済期間の月数
- 保険料4分の1免除期間の月数×4分の3
- 保険料半額免除期間の月数×2分の1
- 保険料4分の3免除期間の月数×4分の1
免除期間がある場合は、実際の期間よりも月数が少なく計算されるため、要件を満たすか事前によく確認しましょう。
参考:脱退一時金の制度|日本年金機構
厚生年金保険の受給要件
厚生年金保険の脱退一時金を請求する場合は、以下の条件をすべて満たす必要があります。
厚生年金保険の受給要件
- 6ヵ月以上の厚生年金保険(共済組合等を含む)の加入期間がある
- 日本国籍を有していない
- 老齢基礎年金の受給資格期間(10年間)を満たしていない
- 公的年金制度(国民年金・厚生年金)の被保険者ではない
- 障害基礎年金などの年金を受ける権利を有したことがない
- 日本国内に住所を有していない
- 公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない
(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)
国民年金加入時との違いは、国民年金は実際に保険料を支払った期間が要件となる一方、厚生年金は被保険者期間が要件となる点です。厚生年金の場合、保険料が免除されている期間であっても、被保険者資格を有している限り、被保険者期間としてカウントされます。
参考:脱退一時金の制度|日本年金機構
脱退一時金の支給額の計算方法

脱退一時金の支給額の計算において厚生年金保険の場合、平均標準報酬額、支給率、加入期間に基づく複雑な計算式によって決定されるため、国民年金と比べると少々複雑です。
国民年金と厚生年金保険それぞれの脱退一時金の計算方法について説明していきます。
国民年金の脱退一時金における計算方法
国民年金の脱退一時金における支給額は、最後に保険料を納付した月の属する年度と、納付済みの月数に基づいて以下の式で計算されます。
計算式
(最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額)×(2分の1)×(支給額計算に用いる数)
脱退一時金の支給額は、年金保険料の納付期間に応じて算出されます。
以下の表は、最後に保険料を納付した月が2025年(令和7年)4月から2026年(令和8年)3月の場合の支給額です。
| 保険料納付済期間等の月数(※) | 支給額計算に用いる数 | 支給額(令和7年度) |
|---|---|---|
| 6月以上12月未満 | 6 | 52,530円 |
| 12月以上18月未満 | 12 | 105,060円 |
| 18月以上24月未満 | 18 | 157,590円 |
| 24月以上30月未満 | 24 | 210,120円 |
| 30月以上36月未満 | 30 | 262,650円 |
| 36月以上42月未満 | 36 | 315,180円 |
| 42月以上48月未満 | 42 | 367,710円 |
| 48月以上54月未満 | 48 | 420,240円 |
| 54月以上60月未満 | 54 | 472,770円 |
| 60月以上 | 60 | 525,300円 |
※保険料の一部免除を受けていた期間については、免除の種類に応じて算入される期間が異なります。また、2021年3月以前に最後に保険料を納付した場合は、支給額の計算において納付期間の上限が36ヵ月(3年)となります。
参考:脱退一時金の制度|日本年金機構
厚生年金保険の脱退一時金の計算方法
厚生年金保険の脱退一時金は、以下の計算式で算出されます。
計算式
(被保険者であった期間の平均標準報酬額)×(支給率)
被保険者であった期間の平均標準報酬額は以下のAとBを合算し、全体の被保険者期間の月数で割った額です。
A:2003年4月より前の被保険者期間の標準報酬月額に1.3を乗じた額
B:2003年4月以後の被保険者期間の標準報酬月額と標準賞与額を合算した額
支給率は、最終月(資格喪失日の属する月の前月)の属する年の前年10月の保険料率(最終月が1月から8月の場合は、前々年10月の保険料率)に1/2を乗じた率に、被保険者期間に応じた係数を乗じて算出します。
計算結果に小数点以下第1位未満の端数が生じる場合は、四捨五入します。
最終月が2021年(令和3年)4月以降の場合の支給率について以下の表にまとめました。
| 被保険者であった期間 | 支給率計算に用いる数 | 支給率 |
|---|---|---|
| 6月以上12月未満 | 6 | 0.5 |
| 12月以上18月未満 | 12 | 1.1 |
| 18月以上24月未満 | 18 | 1.6 |
| 24月以上30月未満 | 24 | 2.2 |
| 30月以上36月未満 | 30 | 2.7 |
| 36月以上42月未満 | 36 | 3.3 |
| 42月以上48月未満 | 42 | 3.8 |
| 48月以上54月未満 | 48 | 4.4 |
| 54月以上60月未満 | 54 | 4.9 |
| 60月以上 | 60 | 5.5 |
なお、最終月が2021年(令和3年)3月以前の場合は、これまで通り36ヵ月(3年)を上限として支給額が計算されます。
参考:脱退一時金の制度|日本年金機構
脱退一時金の支給額計算例

ここでは、国民年金と厚生年金保険それぞれの脱退一時金における具体的な計算例を示します。
以下はあくまで計算例であり、実際の支給額は個々の状況によって異なります。また、厚生年金の計算では、保険料率は最新の値を使用してください。
それぞれの計算方法を理解し、外国人労働者へ具体例を用いてわかりやすく説明しましょう。
国民年金の脱退一時金の計算例
最後に保険料を納付した月:2023年9月
保険料納付済期間:36ヵ月
2023年の国民年金保険料:16,590円/月
|
よって、脱退一時金は248,850円となります。
厚生年金の脱退一時金の計算例
年収:320万円(月給20万円×12ヵ月+賞与40万円×年2回)
加入期間:48ヵ月
厚生年金保険料率:18.3%(仮定)
|
よって、脱退一時金は約88万円となります。
脱退一時金の請求手続きに必要な書類

脱退一時金の請求には、脱退一時金請求書とそのほか書類の提出が必要です。これらの書類は、通常、請求者自身で準備します。
それぞれの書類について解説していきます。
脱退一時金請求書
脱退一時金請求書は、日本年金機構の「脱退一時金に関する手続きをおこなうとき」のページからダウンロード可能です。
以下の14言語に対応した書式が用意されています。
| 英語 | 中国語 | 韓国語 |
| ポルトガル語 | スペイン語 | インドネシア語 |
| フィリピノ(タガログ)語 | タイ語 | ベトナム語 |
| ミャンマー語 | カンボジア語 | ロシア語 |
| ネパール語 | モンゴル語 |
日本年金機構のウェブサイト以外にも、以下の方法で請求書が入手可能です。
脱退一時金請求書の入手方法
- 年金ダイヤルでの電話請求
- 最寄りの年金事務所
- 年金相談センター
- 市区町村役場
- 自治体の国際化協会
外国人労働者の国籍に合わせて適切な請求書を使用しましょう。
その他の必要書類
脱退一時金の請求には、脱退一時金請求書以外に以下の書類が必要です。
| 書類 | 詳細 |
|---|---|
| 本人確認書類 | パスポート(旅券)の写し (氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページ) |
| 出国確認書類 | ・住民票の除票の写し、またはパスポートの出国日が確認できるページの写しなど ・帰国前に市区町村に転出届を提出済みの場合は不要 ・日本年金機構が氏名をアルファベットで管理するようになった2012年7月より前に被保険者だった場合は、提出が必要となる場合がある |
| 受取口座確認書類 | ・受取先の金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号、請求者本人の口座名義を確認できる書類 ・金融機関発行の証明書、または請求書の「銀行の証明」欄に銀行の証明印でもOK ・日本国内の金融機関で受け取る場合は、口座名義がカタカナで登録されている必要がある ・ゆうちょ銀行や一部のインターネット専業銀行では受け取れない |
| 基礎年金番号確認書類 | 基礎年金番号通知書、年金手帳など、基礎年金番号が確認できる書類 |
| 委任状 | ・代理人が請求する場合に必要 ・企業が代理人となる場合は、退職前に準備しておくと手続きがスムーズに進む |
参考:脱退一時金を請求する方の手続き|日本年金機構
必要書類に抜け漏れがないように提出前に確認しておきましょう。
脱退一時金の請求から受給までの流れ

脱退一時金の請求から受給までの流れは、以下のようになります。
請求から受給までの流れ
- 必要書類を揃えて、日本年金機構に請求書を提出
- 日本年金機構で請求内容を審査
- 審査結果を請求者に通知
- 受給が決定した場合、指定の金融機関口座に脱退一時金を振り込み
請求から受給までの期間は、請求書が日本年金機構に到着してから約4ヵ月ほどかかります。
この期間は、請求内容の審査や事務処理に要する時間です。
ただし、請求内容に不備があった場合や追加の書類提出が必要な場合は、さらに時間がかかります。
スムーズに手続きを進めるためにも、請求書の記入は慎重におこない、必要書類は漏れなく提出するようにしましょう。
脱退一時金制度における5つの注意点

脱退一時金制度を利用する際の注意点は以下の5つです。
- 年金通算協定の締結国は受け取り方が2パターンある
- 再入国許可を受けて出国する場合は転出届を提出しないと受給できない
- 脱退一時金を複数回申請する場合、加入期間は通算されない
- 帰国前に国内から脱退一時金を請求する場合は転出日以降にする
- 本人または代理人が脱退一時金を申請する
1つずつ理解して、確実に脱退一時金を請求しましょう。
年金通算協定の締結国は受け取り方が2パターンある
日本と社会保障協定を結んでいる国のうち、年金加入期間の通算が可能な国の出身者は、以下の2つの選択肢から受給方法を選べます。
受給方法
- 加入期間を通算して将来年金を受け取る
- 出国後に脱退一時金を受け取る
注意点は、一時金を受け取ると、その期間は年金加入期間として通算できなくなる点です。将来の年金権を放棄して現金を受け取るか、慎重な判断が求められます。なお、イギリスや韓国など一部の国は通算制度の対象外であるため、あらかじめ出身国の協定内容を確認しましょう。
社会保障協定締結国一覧
- 期間通算が可能(20ヵ国)
ドイツ、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、フィンランド、スウェーデン、オーストラリア - 二重加入防止のみ(期間通算なし)
イギリス、韓国、中国、イタリア
参考:協定を結んでいる国との協定発効時期および対象となる社会保障制度|日本年金機構
社会保険協定や社会保険全般については以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
【関連記事】
外国人雇用に関する社会保険の基本ルール|健康保険・年金・雇用保険など制度解説
再入国許可を受けて出国する場合は転出届を提出しないと受給できない
再入国許可を得て出国する場合、現状では脱退一時金を受け取るために、事前に市区町村へ「転出届」の提出が必要です。
転出届を出さずに渡航すると、日本国内に住所があるとみなされ、国民年金の被保険者資格が継続してしまいます。
その結果、「被保険者ではない」という受給要件を満たせず、請求が認められません。
給付を希望するなら、住民登録の抹消手続きを確実に済ませましょう。
なお、2025年6月20日に年金制度改正法が公布され、今後は転出届の提出有無にかかわらず、再入国許可の有効期間中は脱退一時金が支給されなくなります。この変更は、公布日から4年以内に施行される予定です。
再入国やみなし再入国については以下の記事で詳しく解説していますので、ご覧ください。
【関連記事】
外国人労働者の長期休暇や一時帰国について企業が知っておくべき法律や国ごとの休暇時期などを解説
参考:年金制度改正法に関する広報について|厚生労働省
脱退一時金を複数回申請する場合、加入期間は通算されない
脱退一時金は、要件を満たせば回数制限なく何度でも申請可能です。しかし、一度受給すると、それまでに納めた年金加入期間はすべてリセットされてしまいます。
過去の納付期間は、将来の年金を受け取るための資格期間や、次回の脱退一時金の計算には通算されません。
そのため、再度日本で働いて2回目を請求するときは、改めてゼロから6ヵ月以上の納付実績を作る必要があります。
将来的に日本の老齢年金を受け取る可能性がある場合は、一時金を請求するか慎重に判断しましょう。
帰国前に国内から脱退一時金を請求する場合は転出日以降にする
帰国前に日本国内から請求手続きも可能ですが、日本年金機構が請求書を受理した時点で、日本国内に住所がない状態である必要があります。
郵送などで手続きする場合は、必ず転出(予定)日以降に請求書が到着するように手配しなければなりません。
手続きの流れとしては、まず市区町村の役所に「転出届」を提出して転出日を確定させ、その日付に合わせて請求書を送付します。
帰国後に海外から郵送する手間は省けますが、到着タイミングを誤ると受理されません。
本人または代理人が脱退一時金を申請する
脱退一時金の請求手続きは、原則として外国人労働者本人がおこないます。代理人への依頼も可能ですが、その際は申請書に加えて「委任状」の提出が必須です。
無償であれば、友人や会社の担当者など誰でも代理人になれます。一方で、報酬を受け取って業務として代行できるのは、社会保険労務士や弁護士といった国家資格者のみです。
資格を持たない人が有償で請け負うのは法律で禁止されているため、外部へ依頼する際は相手が有資格者かどうかを必ず確認しましょう。
登録支援機関や行政書士事務所では、代理人として申請ができる社労士の有資格者がいる場合が多く、本人の申請が難しい場合は相談しておくのも有効な手段です。
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脱退一時金の請求には、必要書類を日本国内に住所がない状態で提出する必要があります。
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