近年、特定技能制度を活用して外国人材を雇用する企業が増える中で、「どのくらいの給与を提示すべきか」「給与に関する法的なルールにはどのようなものがあるか」といった疑問を抱く担当者も少なくありません。
給与の設定は、法令遵守のみならず、職場定着や人材確保の成否を左右するため、慎重に対応することが求められます。
この記事では、特定技能外国人の給与がどのように決まるのかという基本ルールに加え、厚生労働省の統計データをもとにした給与相場や産業別・企業規模別の傾向について詳しく解説します。適正な給与設定を行ううえで必要な情報を知りたい方は参考にしてください。
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きさらぎ行政書士事務所
行政書士 安藤 祐樹
きさらぎ行政書士事務所代表。20代の頃に海外で複数の国を転々としながら農業や観光業などに従事し、多くの外国人と交流する。その経験を通じて、帰国後は日本で生活する外国人の異国での挑戦をサポートしたいと思い、行政書士の道を選ぶ。現在は入管業務を専門分野として活動中。愛知県行政書士会所属(登録番号22200630号)
特定技能外国人の給与はどう決まるのか
特定技能外国人の給与は、同種の業務に従事する日本人労働者と同等額以上であることが求められます。
実際の給与水準は業種や地域などによって異なるため、「日本人労働者と同等以上」という要件を満たしているかどうかは在留審査の際に確認されることとなります。
「日本人と同等以上」の原則とは
特定技能の在留資格で外国人を雇用する場合、「日本人と同等以上」の報酬水準で雇用契約を締結することが法令上義務づけられています。
「同等以上」であるか否かの確認は、同じ業務に従事する日本人労働者との間で締結した雇用契約の内容と比較して判断されます。給与額に限らず、賞与や手当、勤務時間、福利厚生などの労働条件全体を総合的に見て評価される点に注意が必要です。
特定技能外国人と締結する雇用契約の内容が、同じ業務に従事する日本人従業員と異なる場合は、在留資格認定証明書交付申請や更新許可申請の際に不許可事由となり得ます。
また、「同等以上」の比較の際に、日本人に対して不当に低い賃金を支払っていることが発覚した場合も特定技能外国人の受け入れは認められません。
最低賃金との関係
特定技能外国人を雇用する際は、地域別最低賃金または特定(産業別)最低賃金のいずれか高い方を適用する必要があります。
地域別最低賃金は都道府県ごとに設定されており、特定最低賃金は特定の業種において個別に定められています。同一地域内に複数の最低賃金がある場合は、高い方の金額が基準となります。
最低賃金を下回る賃金で雇用した場合は、労働基準法違反、最低賃金法違反などにより行政指導や罰則の対象になる可能性があります。
特定技能制度においても、日本人と同等以上の待遇を前提としており、適正な給与設定を行うことが求められます。
給与相場に関する政府統計資料
特定技能外国人の給与を設定するうえで厚生労働省が公表している外国人雇用に関する各種の統計資料が参考になります。
実際の給与水準は業種や地域、企業の規模などによって異なるため、参考データではありますが、特定技能の給与相場を把握するためには有用な資料です。
次項からは、各種の統計資料に基づく詳細な給与相場を解説します。
在留資格別の平均月給
令和5年における特定技能外国人の平均月給は23万2,600円であり、外国人常用労働者全体の平均給与である26万7,700円と比較するとやや低い水準です。
他の在留資格と比較すると、高度専門職の60万600円、「技術・人文知識・国際業務」の30万2,400円と比べて下回っていますが、「技能実習」の平均月給約20万4,100円より高い給与水準が確保されています。
なお、令和5年時点の統計では特定技能1号と2号の給与は合算して公開されていますが、現状は特定技能2号の在留者数が少ないため、集計データは特定技能1号のみの平均給与と大きくかい離していないと考えられます。
区分 | 平均月給 |
外国人常用労働者計 | 26万7,700円 |
技術・人文知識・国際業務 | 30万2,400円 |
特定技能 | 23万2,600円 |
高度専門職 | 60万600円 |
技能実習 | 20万4,100円 |
永住者 | 31万2,300円 |
定住者 | 28万7,100円 |
参照:厚生労働省|令和5年外国人雇用実態調査の概況
(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001359139.pdf)
職種別の平均月給
この集計データは特定技能に限定するものではありませんが、職種別の平均月額給与は以下の通りです。
なお、表内の区分は厚生労働省の統計上の分類であるため、入管法上の在留資格ごとの業務の区分とは必ずしも一致しません。たとえば生産工程従事者の場合、特定技能の製造分野だけでなく、工場などで製造業に従事する永住者や技能実習生などの月額給与も含めた職種別の平均額として公表されています。
区分 | 平均月給 |
外国人常用労働者計 | 26万7,700円 |
管理的職業従事者 | 68万1,000円 |
専門的・技術的職業従事者 | 37万100円 |
事務従事者 | 30万1,900円 |
販売従事者 | 25万1,100円 |
サービス職業従事者 | 23万4,500円 |
農林漁業従事者 | 20万4,100円 |
生産工程従事者 | 23万9,200円 |
輸送・機械運転従事者 | 29万800円 |
建設・採掘従事者 | 23万1,000円 |
運搬・清掃・包装等従事者 | 21万500円 |
参照:厚生労働省|令和5年外国人雇用実態調査の概況
(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001359139.pdf)
勤続年数別の平均月給
勤続年数別の平均月給は以下の通りです。
なお、こちらの集計データについても、特定技能に限定したものではなく、すべての在留資格の数字を合算して平均を算出した資料ですが、勤続年数による給与の上昇幅などの数字は非常に参考になりますのでぜひご活用ください。
区分 | 平均月給 |
外国人常用労働者計 | 26万7,700円 |
1年未満 | 23万4,500円 |
1年以上3年未満 | 25万5,100円 |
3年以上5年未満 | 27万1,600円 |
5年以上10年未満 | 30万1,400円 |
10年以上15年未満 | 35万7,300円 |
15年以上 | 36万9,400円 |
参照:厚生労働省|令和5年外国人雇用実態調査の概況
(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001359139.pdf)
就労上のトラブルについて
厚生労働省の調査によると、特定技能で日本に在留する外国人のうち、18.1%の割合が何らかの就労上のトラブルがあると回答しています。
その中には、給与などの就労条件や業務内容に関するトラブルも多くあるため、特定技能外国人を雇用する際は、事前にトラブルの芽を摘んでおくことが重要です。
以下は、特定技能外国人が抱える就労上のトラブルの内訳です。
就労上のトラブルの内容 | 割合 |
会社に入るために必要な費用の説明がなかった | 3.5% |
紹介会社(送出し機関含む)の費用が高かった | 30.5% |
事前の説明以上に会社に入るための費用がかかった | 5.5% |
事前に仕事内容について説明がなかった | 5.7% |
事前に賃金について説明がなかった | 2.0% |
事前に労働時間やその他の就業条件について説明がなかった | 2.0% |
事前に説明された内容と実際の仕事内容が違った | 8.1% |
事前に説明された条件と実際の就業条件が違った | 2.0% |
事前の説明以上に高い日本語能力を求められた | 12.9% |
事前の説明以上に会社に入るまでに時間がかかった | 14.3% |
トラブルや困ったことをどこに相談すればよいかわからなかった | 5.4% |
その他 | 34% |
参照:厚生労働省|令和5年外国人雇用実態調査の概況
(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001359139.pdf)
給与決定に関する労働法と入管法のルール
特定技能外国人を雇用する際の給与設定では、労働法令および入管法令の両方の基準に適合する必要があります。
外国人であることを理由に待遇を引き下げることは許されず、法令に則った適正な水準の賃金設定をしなければ在留審査の際に不許可事由となるため注意が必要です。
労働関係法の基準
特定技能外国人を含むすべての労働者には、労働基準法が等しく適用され、時間外労働や休日出勤、深夜勤務には所定の割増賃金を支払う義務があります。
加えて、最低賃金法や労働契約法も適用されるため、雇用契約に際しては賃金、労働時間、休日などの条件を法令に基づき明示する必要があります。
その際、労働条件通知書には就業場所や業務内容、賃金額や支払時期、所定労働時間などの具体的事項を記載しなければなりません。
入管法の基準
特定技能外国人の雇用にあたっては、入管法上、日本人が同様の業務に従事する場合と同等以上の報酬を支払うことが求められています。
また、特定技能外国人が一時帰国を希望する場合には、業務の都合等を踏まえつつ、適切に休暇を取得させる必要があります。
福利厚生施設の利用や各種社内制度の適用についても、日本人と同等の取扱いを行い、差別的な対応を避けることが原則です。
これらの条件を満たしていない場合、在留資格の許可が下りない可能性があるため、受け入れ企業には、適正な雇用条件の整備が求められます。
手当・賞与・控除の取り扱いに関する注意点
特定技能外国人を雇用する際は、基本給に加え、各種手当や賞与、控除の取り扱いについても適正な運用が求められます。
手当や賞与については、支給の有無や金額の基準を明確にし、日本人と同等の待遇となるよう設定する必要があり、控除に関しては、住居費や光熱費などが実費を超えない範囲で行われるよう設定し、不当な差引きがないようにします。
これらの条件は労働条件通知書や雇用契約書に記載し、外国人本人に十分な説明を行ったうえで合意を得なければなりません。
各種手当や賞与の支給
特定技能外国人に対する手当や賞与の支給にあたっては、日本人と同等の待遇を確保することが求められます。
たとえば、住宅手当や通勤手当、皆勤手当などの各種手当については、同様の業務に従事する日本人と同等の条件で支給されなければなりません。待遇に不合理な差がある場合は、在留資格の認定や変更が不許可となる可能性があります。
これらの手当を日本人と同等の基準で支給しているかどうかは、定期届出の際に確認されます。届出書類には、比較対象となる日本人従業員の賃金台帳の写しなどを添付し、待遇の適正性を証明する必要があります。
社会保険料や税金の控除
特定技能外国人を雇用する際には、給与から控除される社会保険料や税金の内訳について、本人に対して丁寧に説明することが重要です。
控除項目には厚生年金保険料、健康保険料、雇用保険料、所得税などがありますが、制度に不慣れな外国人にとっては、支給額と手取り額の差が大きく感じられることがあり、説明不足は誤解やトラブルの原因となります。
そのため、雇用契約書や労働条件通知書に控除項目の内訳を明記し、通訳の協力を得ながら理解を促すことが求められます。
産業分野別の給与相場
特定技能制度の対象となる産業分野は1号が16分野、2号が11分野ありますが、それぞれの分野や業務内容などにより給与水準が異なります。
次項からは、厚生労働省の統計をもとに、「建設」「製造」「介護」の3つの産業分野の平均給与について具体的に紹介します。
建設分野
建設分野に従事する特定技能外国人の月額給与(きまって支給する現金給与額)は、平均で25万8,800円となっています。
この水準は、特定技能全体の平均月額23万2,600円と比べてやや高く、建設業特有の専門性や人手不足の影響が反映されていると考えられます。
なお、厚生労働省が公表する特定技能(建設業)の月額給与の統計資料には、電気・ガス・水道などのライフライン関連の給与額が含まれていないため、実際の特定技能(建設分野)全体の平均月額給与と異なる可能性があります。
在留資格 | 平均年齢 | 勤続年数 | 所定内 実労働時間数 |
超過 実労働時間数 |
平均月額給与 | 年間賞与その他特別給与額 |
特定技能 (建設) |
30.2歳 | 3.1年 | 169時間 | 17時間 | 25万8,800円 | 14万300円 |
製造分野
製造分野に従事する特定技能外国人の月額給与は、平均で24万9,300円となっています。
製造分野の給与相場は建設業分野の25万8,800円と比較するとやや低いですが、特定技能全体の平均23万2,600円と比較すると1万7千円程度高い水準です。
また、製造分野の特徴としては、超過実労働時間は月29時間で、他分野と比較して長い傾向があります。
在留資格 | 平均年齢 | 勤続年数 | 所定内 実労働時間数 |
超過 実労働時間数 |
平均月額給与 | 年間賞与その他特別給与額 |
特定技能 (製造) |
29.3歳 | 2.4年 | 170時間 | 29時間 | 24万9,300円 | 8万6,900円 |
介護分野
介護分野に従事する特定技能外国人の月額給与は、平均で22万3,100円となっています。
この水準は、製造業や建設業と比較すると2~3万円ほど低いですが、この分野は残業時間が少なく全体の労働時間が短めであることが影響していると考えられます。
なお、厚生労働省の統計では「医療・福祉分野」として集計されていますが、特定技能には医療の分類がないため、報酬額のデータはすべて特定技能1号で介護分野に従事する外国人の給与をもとに算出されていると考えられます。
在留資格 | 平均年齢 | 勤続年数 | 所定内 実労働時間数 |
超過 実労働時間数 |
平均月額給与 | 年間賞与その他特別給与額 |
特定技能 (介護) |
26.3歳 | 1.7年 | 166時間 | 4時間 | 22万3,100円 | 13万6,600円 |
企業規模別の給与相場
外国人労働者の給与水準は、企業の規模によって異なります。令和6年の賃金構造基本統計調査によると、従業員数1,000人以上の企業における特定技能外国人の平均月額給与額は26万3,100円で、企業規模別にみると最も高い水準です。
一方、従業員数100~999人規模の企業では23万8,200円、10~99人規模では25万1,400円となっており、必ずしも企業規模が大きくなるほど給与水準が上昇するわけではないようです。
これらの統計データからも、給与水準に関する一定の傾向は見られますが、実際には職務内容や勤務地など個別要因も影響するため、給与設定の際には、統計データだけでなく現場の実情も考慮することが重要です。
従業員数 | 在留資格 | 平均年齢 | 勤続年数 | 所定内実労働時間数 | 超過実労働時間数 | 平均月額給与 | 年間賞与その他特別給与額 |
1,000人以上 | 特定技能 | 27.9歳 | 1.3年 | 181時間 | 15時間 | 26万3,100円 | 6万3,200円 |
100~999人 | 特定技能 | 28.4歳 | 2.0年 | 169時間 | 22時間 | 23万8,200円 | 8万2,800円 |
10~99人 | 特定技能 | 29.7歳 | 2.8年 | 172時間 | 23時間 | 25万1,400円 | 13,6200円 |
まとめ
特定技能外国人の給与については、法令により「日本人と同等以上」の水準が求められ、最低賃金法や労働基準法、入管法のルールに従う必要があります。実際の相場は、業種や地域、企業規模などによって差がありますが、公表されている統計データをもとに具体的な目安を把握することができます。
外国人材の採用を検討している企業は、適正な労働条件の整備と、控除項目や手当などの丁寧な説明を徹底することが求められます。実態と制度の両面を正しく理解し、トラブルを回避できるように準備を進めていきましょう。
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