外国人を雇用するにあたり、社会保険の加入や手続きに関して「外国人には特別なルールがあるのではないか」と不安を抱く経営者の方も多いのではないでしょうか。近年は外国人労働者の受け入れが拡大する一方で、在留資格に関する審査の厳格化も進んでおり、社会保険の適用や手続きに誤りがあると、思わぬトラブルや在留資格の更新に支障が出る可能性があります。
本記事では、外国人雇用に際して押さえておきたい社会保険の基本ルールを整理し、健康保険・年金・雇用保険・労災保険といった主要制度の概要に加え、外国人特有の実務上の注意点についてもわかりやすく解説します。
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きさらぎ行政書士事務所
行政書士 安藤 祐樹
きさらぎ行政書士事務所代表。20代の頃に海外で複数の国を転々としながら農業や観光業などに従事し、多くの外国人と交流する。その経験を通じて、帰国後は日本で生活する外国人の異国での挑戦をサポートしたいと思い、行政書士の道を選ぶ。現在は入管業務を専門分野として活動中。愛知県行政書士会所属(登録番号22200630号)
社会保険と労働保険の違い
社会保険制度には、広義の意味では「健康保険」「厚生年金」「雇用保険」「労災保険」「介護保険」の5つが含まれます。
一方で、雇用保険と労災保険をまとめて「労働保険」と呼ぶ場合には、対比として「健康保険」「厚生年金」「介護保険」の3つを「(狭義の)社会保険」と呼ぶこともあります。
さらに、日本年金機構などでの実務上の手続きでは、「健康保険」と「厚生年金」の2制度の総称として「社会保険」と表現することもあります。「社会保険」という言葉には複数の使われ方があるため、情報収集や手続きを行う際は、文脈に注意することが重要です。
外国人も社会保険加入義務がある
外国人労働者も、日本人と同様に健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険、介護保険(40歳以上)の5つの社会保険に加入する必要があります。これらの制度は、社会生活上のリスクの軽減を目的としており、国籍を問わず、一定の要件を満たせば適用されます。
外国人を雇用する企業にとっては、それぞれの制度を正しく理解し、必要な手続きを確実に行うことが重要です。未加入のまま雇用を続けた場合、社会保険法令の違反に加え、外国人本人の在留資格更新に悪影響を及ぼす可能性もあるため、制度全体の仕組みを把握しておくことが求められます。
健康保険・厚生年金制度の適用ルール
健康保険および厚生年金制度は、事業主の業種や事業規模、従業員の労働時間などに応じて、加入の適用有無が異なります。基本的には、外国人であっても日本人と同様に、これらの条件を満たす場合には加入が義務付けられます。保険料は原則として労使折半で負担されます。
ここでは、雇用主側と従業員側それぞれに課される適用条件について、わかりやすく解説していきます。
雇用主側の適用条件
社会保険制度は事業所単位で適用されます。法律によって加入が義務付けられている事業者を強制適用事業所といい、加入が任意の事業所を任意適用事業所といいます。
加入義務は、法人であれば従業員数にかかわらず原則として強制適用となり加入義務が生じます。また、個人事業主が営む製造業や運送業などの「法定16業種」で、常時5人以上の従業員を雇用している場合も強制適用の対象です。
加入義務のない任意適用事業所の例としては、個人事業の農業、林業、漁業、一部のサービス業などが該当します。
強制適用事業所の一覧 |
①次の事業を行い常時5人以上の従業員を使用する事業所 ・製造業 ・木建築業 ・鉱業 ・電気ガス事業 ・運送業 ・清掃業 ・物品販売業 ・金融保険業 ・保管賃貸業 ・媒介周旋業 ・集金案内広告業 ・教育研究調査業 ・医療保健業 ・通信報道業 ・士業 など②国又は法人の事業所 ・ 常時、従業員を使用する国、地方公共団体又は法人の事業所 |
従業員側の加入適用条件
従業員の社会保険加入適用条件は、雇用形態や労働時間などを確認する必要があります。原則的な加入条件としては、正社員などフルタイム労働者、または週の所定労働時間と月の所定労働日数の両方がフルタイム労働者の4分の3以上の従業員も加入の対象となります。
従業員数が51人以上の法人で働く場合、以下のすべての要件を満たすと、週30時間未満の短時間労働者でも社会保険の加入対象となります。
- 所定労働時間が週20時間以上
- 月額賃金が88,000円以上
- 雇用期間が2か月を超える見込み
- 昼間学生ではないこと
これらの要件は、外国籍の従業員にも同様に適用されます。特定技能をはじめとしたフルタイム雇用が前提の在留資格で就労する外国人を雇う場合、企業が社会保険適用事業所であれば、原則として保険への加入が義務となります。
外国人アルバイトを雇用する場合の注意点
外国人のアルバイトを雇用する際は、在留資格や所属している教育機関の種類などにより、注意すべき点がいくつかあります。
「家族滞在」の在留資格を持ち、資格外活動許可を受けてアルバイトをする外国人は、週28時間以内の就労制限があります。仮に週20~28時間の就労をする場合、事業所の従業員数が51人以上か50人以下かによって、社会保険加入の義務が生じる場合とそうでない場合があるため注意が必要です。
また、「留学」の在留資格についても、資格外活動許可が必要であることや週28時間の就労制限がある点で「家族滞在」と同様です。ただし、大学生や専門学校生など「昼間学生」に該当する場合は、51人以上の法人で働いていても社会保険の適用対象にはなりません。
ただし、日本語教育機関に通う留学生については、所属する教育機関が学校教育法に基づく学校であるか、あるいは株式会社などが運営する無認可校であるかによって、「昼間学生」として扱われるか否かの判断が異なるため注意が必要です。
厚生年金と国民年金
厚生年金の加入条件は、健康保険と同様に、事業所の種別や従業員の労働時間・日数などを基準に判断されます。加入条件を満たさない場合は、国民年金への加入が必要です。
なお、日本人と外国人で加入ルールや保険料、将来の受給額について基準の違いはありません。
年金の種類 | 厚生年金 | 国民年金 |
加入対象 | 社会保険適用事業所で勤務する会社員や公務員 | 日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人 |
保険料 | 収入に応じて変動する | 月額17,510円(令和7年度) |
保険料負担 | 勤務先と本人が折半して負担 | 本人負担 |
最低被保険者期間 | 国民年金の加入期間と合算して10年 | 10年 |
受給額 | 加入期間と現役時の収入によって変動する | 加入期間に応じて一律 |
扶養 | あり | なし |
脱退一時金制度
年金制度には、外国人に特有の仕組みとして「脱退一時金制度」があります。これは、外国人が国民年金や厚生年金の被保険者資格を喪失し、日本を出国した場合に、納付期間に応じた一定額の一時金を受け取ることができる制度です。
この制度により、受給資格を得るための最低加入期間を満たさずに帰国する外国人に対して、年金保険料の払い損を軽減する仕組みが設けられています。
国民年金の脱退一時金
国民年金の脱退一時金を受け取るためには、以下の支給要件をすべて満たす必要があります。なお、請求手続きは「日本国内に住所を有しなくなった日から2年以内」に行う必要があります。
- 日本国籍を有していない
- 国民年金または厚生年金の被保険者でない
- 保険料納付期間が6カ月以上ある
- 老齢年金の受給資格(10年の納付期間)がない
- 障害年金などの年金を受ける権利を有していない
- 日本国内に住所を有していない
- 最後に被保険者資格を喪失して2年以上経過していない
脱退一時金の支給額は、以下の計算式で算出されます:
「最後に保険料を納付した年度の保険料額 × 1/2 × 支給額計算に用いる数」
ここでの「支給額計算に用いる数」は、納付済期間に応じて6カ月単位で定められており、例えば6〜12カ月の場合は「6」、12〜18カ月の場合は「12」といったように設定されています。
以下の表では、納付済期間ごとの「支給額計算に用いる数」と、最後に保険料を納付した月が2025年4月〜2026年3月の場合の脱退一時金の支給額目安をまとめています。
国民年金の脱退一時金支給額一覧表 | ||
納付済期間 | 支給額計算に用いる数 | 支給額 |
6~12カ月未満 | 6 | 52,530円 |
12~18カ月未満 | 12 | 105,060円 |
18~24カ月未満 | 18 | 157,590円 |
24~30カ月未満 | 24 | 210,120円 |
30~36カ月未満 | 30 | 262,650円 |
36~42カ月未満 | 36 | 315,180円 |
42~48カ月未満 | 42 | 367,710円 |
48~54カ月未満 | 48 | 420,240円 |
54~60カ月未満 | 54 | 472,770円 |
60カ月以上 | 60 | 525,300円 |
※最後に保険料を納付した月が2025年4月から2026年3月の間の場合の支給額です。
参考:日本年金機構|脱退一時金の制度
厚生年金の脱退一時金
厚生年金の脱退一時金を受け取るためには、以下の支給要件をすべて満たす必要があります。請求可能期間は、国民年金と同様に、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以内です。
- 日本国籍を有していない
- 国民年金または厚生年金の被保険者でない
- 厚生年金の加入期間が6カ月以上ある
- 老齢年金の受給資格(10年の納付期間)がない
- 障害厚生年金などの年金を受ける権利を有していない
- 日本国内に住所を有していない
- 最後に被保険者資格を喪失して2年以上経過していない
支給額は、以下の計算式で算出されます:
「被保険者期間中の平均標準報酬額 × 支給率」
「支給率」は、被保険者期間に応じて6カ月単位で定められており、加入期間が長くなるほど支給率も高く設定されます。具体的な支給率は日本年金機構が公表しており、最新の表を確認することで、支給額の目安を把握することが可能です。
厚生年金の脱退一時金支給率計算表 | |
被保険者期間 | 支給率 |
6~12カ月未満 | 0.5 |
12~18カ月未満 | 1.1 |
18~24カ月未満 | 1.6 |
24~30カ月未満 | 2.2 |
30~36カ月未満 | 2.7 |
36~42カ月未満 | 3.3 |
42~48カ月未満 | 3.8 |
48~54カ月未満 | 4.4 |
54~60カ月未満 | 4.9 |
60カ月以上 | 5.5 |
国民年金の免除・納付猶予制度
外国人であっても、厚生年金の適用を受けない場合には、原則として国民年金への加入義務が生じます。ただし、留学生など入国直後のタイミングで年金の納付義務が発生すると、経済的に大きな負担となることがあります。
そのような状況を考慮して、国民年金には所得の状況に応じた「免除」や「納付猶予」の制度が設けられています。これらの制度を活用することで、所得が少ない、または無収入といった状況でも生活が安定するまでの間の負担を軽減することが可能です。
参考:日本年金機構|国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度
雇用保険の加入適用条件
雇用保険は、失業や傷病、育児休業などにより、一時的に働けなくなった方の生活の安定や再就職の支援を目的とする重要な制度です。加入要件を満たせば、外国人労働者も日本人と同様に雇用保険に加入することとなります。
雇用保険の加入対象となるのは、以下の2つの条件を満たす労働者です。
- 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること
- 1週間の所定労働時間が 20時間以上であること
雇用保険の保険料は、従業員と事業主がそれぞれ負担しますが、事業主側の負担割合がやや高めに設定されています。具体的な保険料率は年度や業種によって異なるため、最新の情報は厚生労働省の公式サイトで確認しましょう。
加入手続きは、ハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出して行います。また、従業員が退職した場合には、「雇用保険被保険者資格喪失届」および「離職証明書」の提出が必要です。これらの手続きも、原則として事業主が行います。
雇用保険の加入適用除外の条件
以下のいずれかに該当する場合は、雇用保険の加入対象とはなりません。
- 1週間の所定労働時間が20時間未満である者
- 31日以上引き続き雇用されることが見込まれない者
- 季節的に雇用される場合で4カ月以内の有期雇用または週所定労働時間が30時間未満の者
- 学校教育法第1条、124条、134条に規定される学校の学生
上記を踏まえ、特に日本語教育機関に通う留学生を雇用する際には注意が必要です。日本語教育機関には、学校教育法に基づいて設置された学校と、それ以外の個人や株式会社などによって設置された教育機関があり、これにより雇用保険の適用の条件が異なります。
週20時間を超えて勤務する留学生を雇用する場合は、その学生が所属する教育機関が学校教育法に基づくものであるかどうかを事前に確認し、雇用保険の適用有無を適切に判断しましょう。
外国人雇用状況の届出を忘れずに
外国人を雇用する事業主は、原則として雇い入れおよび離職の際に、ハローワークへ「外国人雇用状況の届出」を提出する義務があります。
ただし、雇用する外国人が雇用保険の加入対象である場合には、雇用保険の資格取得届または喪失届の提出をもって、外国人雇用状況の届出を行ったものとみなされます。
一方、1週間の所定労働時間が20時間未満の留学生アルバイトなど、雇用保険の加入対象とならない外国人を雇用する場合は、「外国人雇用状況届出書」をハローワークに個別に提出する必要があります。この届出を怠ると、30万円以下の罰金が科される可能性があるため、必ず期日内に手続きを行いましょう。
労災保険の加入適用条件
労災保険とは、業務中や通勤中に事故などが発生した際に、治療費や休業補償などを給付するための制度です。従業員を1人でも雇用している事業所は、雇用形態を問わず労災保険に加入しなければなりません。
保険料は事業主が全額負担し、業種ごとの労働災害リスクに応じて料率が異なります。
金額の計算は、全従業員の賃金総額に保険料率を乗じて算出され、たとえばリスクの低い金融業・保険業では料率が1,000分の2.5である一方、リスクの高い林業では1,000分の52といった高い料率が設定されています。
介護保険の加入適用条件
介護保険は、原則として40歳以上のすべての人が加入義務を負う制度であり、外国人も例外ではありません。被保険者は40歳に到達した月から保険料の納付義務が発生し、医療保険料とあわせて徴収されます。
介護保険の保険料は、都道府県ごとに定められる料率に、全国共通の基準料率を加えた形で構成され、毎年度見直しが行われます。
年金の二重負担を防ぐための社会保障協定
社会保障協定とは、異なる国に移動して滞在、勤務する人が、社会保険料の二重負担や年金受給資格の不利益を受けないようにするため、保険加入期間の通算や保険料負担の調整などを二国間で取り決める制度です。2025年現在、日本は23カ国とこの協定を締結しています。
なお、協定の具体的な内容は国ごとに異なるため、詳細については日本年金機構の公式サイトをご確認ください。
まとめ
この記事では、外国人を雇用する際に必要となる社会保険の仕組みについて、各制度の概要や外国人特有の適用ルールなどを詳しく解説しました。
外国人雇用や社会保険の手続きに不安がある場合は、早めに行政機関や専門家へ相談することで、手続き漏れや将来的なトラブルを防ぐことができます。適正な雇用・在留管理を徹底し、外国人にとっても安心して働ける雇用環境の整備を心がけましょう。
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