2019年に運用が開始された特定技能制度の活用により、即戦力の外国人労働者の受け入れが年々増加し、人手不足の解消に効果を発揮しています。
しかし、特定技能制度を利用できるのは、法務大臣が指定する特定産業分野の事業者のみであるため、対象外の分野では人手不足がますます深刻化しています。
そこで、政府は令和6年3月29日に特定技能の受け入れ対象分野の追加を閣議決定しました。
この記事では、閣議決定およびその後の政府公表資料の内容をもとに、新たに受け入れが開始された4つの分野と既存分野への業種追加について詳しく解説します。
INDEX
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きさらぎ行政書士事務所
行政書士 安藤 祐樹
きさらぎ行政書士事務所代表。20代の頃に海外で複数の国を転々としながら農業や観光業などに従事し、多くの外国人と交流する。その経験を通じて、帰国後は日本で生活する外国人の異国での挑戦をサポートしたいと思い、行政書士の道を選ぶ。現在は入管業務を専門分野として活動中。愛知県行政書士会所属(登録番号22200630号)
特定技能の受け入れ対象は16分野に拡大
令和6年9月30日に、特定技能の産業分野を定める省令が改正され、受け入れ対象分野が12分野から16分野に拡大されました。
また、既存の「工業製品製造業分野」「造船・舶用工業分野」「飲食料品製造業分野」の3分野についても、業務区分や作業内容が追加され、受け入れ対象範囲が拡大されました。
特定技能の受け入れ対象分野一覧
特定技能の受け入れ対象16分野は以下の通りです。
既存12分野 | 追加4分野 |
・介護 ・ビルクリーニング ・工業製品製造業(注1) ・建設 ・造船・舶用工業 ・自動車整備 ・航空 ・宿泊 ・農業 ・漁業 ・飲食料品製造業 ・外食業 |
・自動車運送業 ・鉄道 ・林業 ・木材産業 |
(注1)「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」から「工業製品製造業」に名称が変更されました。
追加4分野の受け入れ開始時期
新たに追加された4つの分野の受け入れ開始の時期は、「鉄道」「林業」「木材産業」の3分野においては、新分野の追加と同時に分野別の上乗せ基準告示が施行されたため、令和6年9月30日から受け入れが開始されています。
「自動車運送業分野」は、令和6年12月19日に上乗せ基準告示が施行され、受け入れが開始されました。
なお、「自動車運送業分野」で特定技能の在留資格を取得するためには運転免許が必要です。そのため、事前の運転免許取得や新任運転者研修の受講を目的とする「特定活動(特定自動車運送業準備)」による受け入れも新たに開始されることとなりました。
追加4分野の業務区分の詳細
令和7年2月現在、特定技能の産業分野として追加された4つの分野すべてにおいて、特定技能1号のみが受け入れ可能とされています。
特定技能2号については、今後追加される可能性がありますが、現時点では関係行政機関からの発表はありません。
以下に、新たに追加された4分野の業務内容や在留資格取得要件などについて解説します。
自動車運送業分野
自動車運送業分野の主な業務内容は、貨物や乗客を輸送するための「運行業務」です。
その他に、トラックの場合は「荷役業務」、バスやタクシーの場合は「接遇業務」も業務内容に含まれます。
また、関連業務として「車両の清掃」や「運行前後の準備・片付け」など、日本人従業員が通常行う業務に付随的に従事することも認められています。
ただし、「関連業務に長時間従事すること」や「試験などで専門性が確認される業務に従事すること」は、たとえ日本人従業員が通常行う業務であっても、特定技能外国人に同じように従事させることはできないため注意が必要です。
分野名 | 自動車運送業 |
在留資格の種類 | 特定技能1号 |
所管省庁 | 国土交通省 |
業務区分 | バス運転者、タクシー運転者、トラック運転者(3業務区分) |
業務内容 | 運行業務、荷役業務、接遇業務、車両の清掃、運行前後の準備・片付けなど |
技能試験 | 自動車運送業分野特定技能1号評価試験合格 |
日本語試験 | ・バス運転者、タクシー運転者はN3相当以上
・トラック運転者はN4相当以上 |
技能実習の関連職種 | なし |
在留期間の上限 | 通算5年 |
所属機関の要件 | ・自動車運送事業を営む者であること ・安全性優良事業所(Gマーク)の認定を受けた事業者であること ・自動車運送業分野特定技能協議会の構成員であること |
免許・講習受講等 | ・トラック運転者(第一種運転免許) ・バス運転者・タクシー運転者(第二種運転免許、新任運転者研修の修了) |
登録支援機関への支援委託 | 支援委託をする場合は登録支援機関が自動車運送業分野特定技能協議会の構成員であること |
報酬基準 | 同じ業務に従事する日本人と同等額以上 |
運転免許取得のための特定活動
特定技能「自動車運送業」の在留資格を取得するためには、日本の運転免許が必要です。
必要な免許の区分は、トラック運転者は「第一種運転免許」、バス運転者およびタクシー運転者は「第二種運転免許」です。
また、バス運転者およびタクシー運転者は、事前に「新任運転者研修」を修了することも求められます。
そのため、自動車運送業分野では、運転免許の取得や新任運転者研修の受講を目的とする「特定活動(特定自動車運送業準備)」の制度も運用開始されることとなりました。
「特定活動(特定自動車運送業準備)」の在留資格取得要件や活動範囲の詳細は以下の通りです。
在留資格の種類 | 特定活動55号(特定自動車運送業準備) |
在留期間 | ・トラック運転者(6カ月)
・バス運転者、タクシー運転者(1年) |
活動内容 | ・運転免許証の取得(自動車教習所への通所など) ・新任運転者研修の受講(バス、タクシーの場合) ・車両の清掃などの関連業務 |
取得する免許の種類 | ・「第一種運転免許(トラック運転者)」 ・「第二種運転免許(バス運転者、タクシー運転者)」 |
在留期間の更新 | 更新不可 |
免許取得・研修終了後の在留可否 | 在留期間が残っていても、速やかに「特定技能1号」に変更する必要あり |
特定活動55号の在留期間の扱い | 「特定技能1号」の通算5年の期間には含まれない |
雇用契約 | 必要(特定自動車運送業準備雇用契約) |
支援義務 | 特定技能一号と同等の支援義務あり |
登録支援機関への支援委託 | 委託可 |
報酬基準 | 同じ業務に従事する日本人と同等額以上 |
鉄道分野
鉄道分野の業務内容は多岐にわたるため、「運輸係員」「軌道整備」「電気設備整備」「車両製造」「車両整備」の5つの業務区分に分類されています。
それぞれの業務区分において指定された業務以外にも、日本人従業員が通常行う関連業務に付随的に従事することも可能です。
ただし、「付随的な従事」の範囲を超えて、長時間にわたって関連業務を行うことはできないため注意が必要です。
関連業務の例としては、「事務作業」や「作業場所の整理整頓・清掃」などが該当します。
分野名 | 鉄道 |
在留資格の種類 | 特定技能一号 |
所管省庁 | 国土交通省 |
業務区分 | 運輸係員(運転士、車掌、駅係員)、軌道整備、電気設備整備、車両製造、車両整備(5業務区分) |
業務内容 | 業務内容一覧参照 |
技能試験 | 鉄道分野特定技能1号評価試験 |
日本語試験 | ・運輸係員(運転士、車掌、駅係員)はN3相当以上 ・軌道整備、電気設備整備、車両製造、車両整備はN4相当以上 |
技能実習の関連職種 | 軌道整備:鉄道施設保守整備 車両製造:機械加工等8職種19作業 車両整備:鉄道車両整備 |
在留期間の上限 | 通算5年 |
所属機関の要件 | ・鉄道事業者、軌道経営者、鉄道事業または軌道事業のための施設・車両整備・車両製造の事業を営む者であること ・鉄道分野特定技能協議会の構成員であること |
登録支援機関への支援委託 | 支援委託をする場合は登録支援機関が鉄道分野特定技能協議会の構成員であること |
報酬基準 | 同じ業務に従事する日本人と同等額以上 |
鉄道分野の業務内容一覧
鉄道分野の5つの業務区分ごとの詳細な業務内容は以下の通りです。
業務区分 | 業務内容 |
軌道整備 | 軌道検測作業、レール交換作業、まくらぎ交換作業、バラストを取り扱う作業、保安設備を取り扱う作業等、軌道等の新設、改良、修繕に係る作業・検査業務等 |
電気設備整備 | 電路設備、変電所等設備、電気機器等設備、信号保安設備、保安通信設備、踏切保安設備等の新設、改良、修繕に係る作業・検査業務等 |
車両整備 | 列車検査、定期検査、臨時検査、構内入換、駅派出対応、改造工事、在庫・予備品管理、工場設備取扱い、定期・ 臨時清掃業務等 |
車両製造 | 素材加工、部品組立て、構体組立て、塗装、溶接、ぎ装、台車枠製造、台車組立て、電子機器組立て、電気機器組立て、試験・検査、部品検収・配膳業務等 |
運輸係員 | ポイント操作、入換え合図、駅設備管理・ 取扱業務、旅客案内・貨物取扱業務、運行管理業務、車掌業務、運転士業務等 |
林業分野
林業分野の業務区分は「育林、素材生産、林業種苗育成等」の1種類のみです。
主な業務内容は、「苗木を植え、樹木を育てる作業」や「丸太を生産する作業」などで、日本人従業員が通常行う関連業務にも付随的に従事することが可能です。
関連業務の例としては、「丸太の加工」「丸太生産の副産物(樹皮・つるなど)を使用した製造作業」「機械・工具などの保守管理作業」「資材管理・運搬作業」「作業場等の清掃」などが該当します。
関連業務に従事する場合は「付随的な従事」に限られるため、専任的に従事することのないように注意する必要があります。
分野名 | 林業 |
在留資格の種類 | 特定技能1号 |
所管省庁 | 農林水産省 |
業務区分 | 育林、素材生産、林業種苗育成等(1業務区分) |
業務内容 | 「苗木を植え、樹木を育てる作業」「丸太を生産する作業」など |
技能試験 | 林業技能測定試験 |
日本語試験 | N4相当以上 |
技能実習の関連職種 | 技能実習への職種追加検討中 |
在留期間の上限 | 通算5年 |
所属機関の要件 | 林業特定技能協議会の構成員であること |
登録支援機関への支援委託 | 支援委託をする場合は登録支援機関が鉄道分野特定技能協議会の構成員であること |
報酬基準 | 同じ業務に従事する日本人と同等額以上 |
木材産業分野
木材産業分野の業務区分は「製材業、合板製造業などに係る木材の加工工程等」の1種類のみです。
木材産業分野で特定技能の外国人を受け入れるためには、受け入れ企業等の事業内容が日本標準産業分類のうち、以下のいずれかに該当する必要があります。
小分類121-製材業、木製品製造業
細分類1222-合板製造業
細分類1223-集成材製造業
細分類1224-建築用木製組立材料製造業
細分類1227-銘木製造業
細分類1228-床板製造業
主な業務内容は「製材業、合板製造業などに係る木材の加工等」ですが、日本人従業員が通常行う関連業務にも付随的に従事することが可能です。
関連業務の例としては、「原木等の調達・受入れ」「検査工程に係る作業」「清掃」「運搬」「積み込み」などが該当しますが、「付随的な従事」の範囲を超えて専任的に従事することはできません。
分野名 | 木材産業 |
在留資格の種類 | 特定技能1号 |
所管省庁 | 農林水産省 |
業務区分 | 製材業、合板製造業などに係る木材の加工工程及びその付帯作業等(1業務区分) |
業務内容 | 製材業、合板製造業などに係る木材の加工等 |
技能試験 | 木材産業特定技能1号測定試験 |
日本語試験 | N4相当以上 |
技能実習の関連職種 | 木材加工 |
在留期間の上限 | 通算5年 |
所属機関の要件 | ・木材産業特定技能協議会の構成員であること ・事業所が日本標準産業分類のうち、木材産業分野に該当する活動を行っていること |
登録支援機関への支援委託 | 支援委託をする場合は登録支援機関が鉄道分野特定技能協議会の構成員であること |
報酬基準 | 同じ業務に従事する日本人と同等額以上 |
既存3分野への業種追加
令和6年3月29日の閣議決定では、新たな産業分野の追加に加え、既存分野の業務追加や区分変更も行われました。
業務追加などが行われた産業分野は「工業製品製造業」「造船・舶用工業」「飲食料品製造業」の3分野です。
以下に各分野の変更点を解説します。
工業製品製造業分野
工業製品製造業分野では、7つの業務区分が追加されました。
新しく追加された業務区分においては、特有の要件が設けられている場合があるため、新分野で受け入れを検討している場合は個別の要件を確認してください。
変更点 | 改正前 | 改正後 |
分野の名称 | 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業 | 工業製品製造業 |
業務区分 | ・機械金属加工 ・電気電子機器組立て ・金属表面処理 |
・機械金属加工 ・電気電子機器組立て ・金属表面処理 ・紙器・段ボール箱製造 ・コンクリート製品製造 ・陶磁器製品製造 ・紡織製品製造 ・縫製 ・RPF製造 ・印刷・製本 |
既存業務区分への業務の追加 | - | 鉄鋼、アルミサッシ、プラスチック製品、金属製品塗装、こん包業の追加 |
紡織製品製造と縫製区分特有の要件 | - | 1. 国際的な人権基準に適合し事業を行っていること 2. 勤怠管理を電子化していること 3. パートナーシップ構築宣言を実施していること 4. 特定技能外国人の給与を月給制とすること |
印刷・製本区分特有の要件 | - | 全日本印刷工業組合連合会、全国グラビア協同組合連合会、全日本製本工業組合連合会のいずれかに所属していること |
こん包業特有の要件 | - | 日本梱包工業組合連合会に所属していること |
特定技能2号の対象区分 | すべての業務区分が2号の対象 | 新規追加業種は1号のみ受け入れ可 |
技能実習の関連職種 | 繊維・衣服関係など21職種38作業を追加 |
造船・船用工業分野
造船・船用工業分野では、業務区分が3区分に再編されました。
また、作業範囲が拡大され、技能実習の8職種11作業が新たにこの分野の特定技能の関連業務と認められることとなりました。
変更点 | 改正前 | 改正後 |
業務区分 | ・溶接 ・塗装 ・鉄工 ・仕上げ ・機械加工 ・電気機器組立て |
・造船 ・船用機械 ・船用電気電子機器 |
特定技能2号の対象区分 | すべての業務区分が2号の対象 | 新規追加業種も全て2号の対象 |
技能実習の関連職種 | - | とび・配管など8職種11作業を追加 |
飲食料品製造業分野
飲食料品製造業分野では、スーパーマーケットの食料品製造部門でも特定技能を利用した外国人労働者の受け入れが可能になりました。
変更点 | 改正前 | 改正後 |
受け入れ対象事業者 | ・食料品製造業 ・清涼飲料製造業 ・茶・コーヒー製造業 ・製氷業 ・菓子小売業(製造小売) ・パン小売業(製造小売) ・豆腐・かまぼこ等加工食品小売業 |
・食料品製造業 ・清涼飲料製造業 ・茶・コーヒー製造業 ・製氷業 ・菓子小売業(製造小売) ・パン小売業(製造小売) ・豆腐・かまぼこ等加工食品小売業 ・総合スーパーマーケット(食料品製造に限る) ・食料品スーパーマーケット(食料品製造に限る) |
特定技能2号の対象区分 | すべての業務区分が2号の対象 | 新規追加業種も全て2号の対象 |
まとめ
特定技能制度の利用は、人手不足を解消するために非常に有効な手段ですが、2019年の創設以降、幾度となく制度改正が行われており、最新の情報を把握するだけでも大きな手間がかかってしまいます。
特定技能制度を有効活用するためには、実績のある人材紹介会社や登録支援機関との関係を構築し、定期的に最新の情報を共有してもらうことが重要です。
外国人従業員の受け入れを検討中の方は、まずは信頼できるビジネスパートナー探しから始めてみてはいかがでしょうか。
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