外国人労働者を雇用する企業にとって、不法滞在は決して他人事ではありません。
本人の在留期限切れだけでなく、制度理解不足や悪質なブローカーの介在など、企業側が気づきにくい背景で発生するケースもあります。
万が一、不法滞在や不法就労につながれば、企業にも重大なペナルティが及ぶ可能性があります。
本記事では、不法滞在の仕組み・原因・対処法を整理し、企業がリスク管理として押さえておきたいポイントを解説します。
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この記事の監修(株)アルフォース・ワン 代表取締役
山根 謙生(やまね けんしょう)
日本人・外国人含め全国で「300社・5,000件」以上の採用支援実績を持つ人材採用コンサルタント。監理団体(兼 登録支援機関)に所属し、技能実習生・特定技能外国人の採用にも取り組んでいる。外国人雇用労務士、外国人雇用管理主任者資格、採用定着士認定保有。(一社)外国人雇用協議会所属。
不法滞在(オーバーステイ)とは

「不法滞在(オーバーステイ)」とは、許可された在留資格とその有効期間を超えて日本に滞在することを指します。
また、許可された資格外の就労を行う「無資格就労」の状態も、不法就労および不法滞在につながる可能性があります。
日本では、外国人が合法的に滞在・就労するには、出入国管理及び難民認定法(入管法)などに基づき、在留資格の取得および更新・在留期間の厳守が義務づけられています。
しかし、制度をよく理解しないまま雇用したり、手続きを怠ったりすると、知らず知らずのうちに違反状態になってしまうおそれがあります。
不法滞在のペナルティと強制送還
不法滞在が発覚した場合、外国人本人だけでなく、雇用する企業にも重大な法的リスクが生じます。
入管法では、在留資格の失効後も滞在を続ける行為や、無資格で働く行為を厳しく規制しており、違反内容に応じて刑事罰・退去強制・再入国制限など多岐にわたる措置が科されます。詳しく解説していきます。
刑事罰(懲役・罰金)の対象になる
不法滞在は入管法第70条に基づく犯罪行為であり、
・3年以下の懲役または300万円以下の罰金(入管法70条1項3号・4号)
が科される可能性があります。
無資格で働いた場合は「不法就労」となり、同条に基づきさらに厳しい処分の対象となります。
また、企業が不法滞在者・無資格就労者を雇用した場合、入管法第73条の2(不法就労助長罪)に該当し、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。
「知らなかった」では免責されないため、企業には在留資格確認の注意義務があります。
参考:e-GOV法令検索「出入国管理及び難民認定法」
退去強制(強制送還)と出国命令制度の違い
不法滞在が判明すると、出入国在留管理庁は状況に応じて「退去強制」または「出国命令制度」を適用します。
・退去強制(入管法24条)
法違反として扱われ、入管が強制的に送還する手続きで、原則、再入国まで5年間の上陸拒否(入管法5条1項9号)となります。
・出国命令制度(入管法55条の3)
軽微な不法滞在で、自主的な出頭があるなど一定条件を満たした場合に適用されます。再入国制限は1年間です。
出国命令制度は、「自発的に出頭し、軽微な違反で過去に退去強制歴がない」などの条件を満たす場合に限られます。
参考:e-GOV法令検索「出入国管理及び難民認定法」
上陸拒否期間(5年・10年)と再入国の制限
不法滞在者が日本を出国した場合、入国管理法に基づき再入国が一定期間制限されます。
・退去強制:原則5年の上陸拒否
・出国命令制度:1年の上陸拒否
重大な違反・再度の退去強制の場合は、10年の上陸拒否が適用されます(入管法5条1項5号・9号)。
これらの記録は将来のビザ申請にも影響し、就労や生活再建が困難になることがあります。
企業にとっても、突然従業員を失うリスクが生じるため、採用時・更新時の在留カードチェックは不可欠です。
参考:e-GOV法令検索「出入国管理及び難民認定法」
不法滞在の原因とは

不法滞在の背景には、さまざまな要因が存在します。
ここからは不法滞在の原因を5つ取り上げ解説します。
経済的困窮と高収入への期待
母国の経済状況が厳しい外国人にとって、日本で働くことは魅力的な選択肢です。
しかし「短期間で高収入を得たい」という強い期待から、資格外活動に手を出したり、更新手続きを後回しにしたりしてしまい、結果として在留期限の失念や資格外の就労へつながるケースがあります。
また、日本の在留制度や更新条件への理解不足により、必要書類の準備が遅れたり、期限前に更新できず、そのまま不法滞在に至ってしまったりすることもあります。
企業側が在留期限のフォローを行うことで、このリスクは大幅に軽減できます。
悪質なブローカーや雇用主の存在
不法滞在を招く典型的な要因のひとつとして、悪質なブローカーや不適切な雇用主の存在があります。
ブローカーは「高収入を保証する」「ビザの心配はいらない」と虚偽の説明をし、外国人に不法滞在や不法就労を促すケースがあります。
また、雇用主側が在留資格の確認を怠った結果、労働者が知らぬ間に資格外活動となり、在留資格が更新できなくなる状況に追い込まれることもあります。
企業が信頼できる人材紹介会社を選び、雇用前・雇用後の在留資格確認を徹底することが不可欠です。
在留期間のうっかり失効
外国人が最も陥りやすい原因のひとつが、在留期間の「単純な失念」です。
言語の壁や制度の複雑さから、更新期限を勘違いしたり、必要書類の準備が間に合わなかったりするなど、更新手続きの遅れは日常的に起こり得ます。
また、収入・雇用契約の継続などで更新条件を満たしていない場合には更新が認められないこともあり、結果的に不法滞在となってしまいます。
企業側が更新期限の管理表やリマインダー制度を導入することで、こうした事故的な失効はほぼ防ぐことができます。
厳しい難民認定基準
日本の難民認定制度は国際的に見ても厳格で、申請者の多くが認定に至りません。
難民申請中は在留が認められるケースもありますが、不認定後に在留期限が切れたまま滞在してしまい不法滞在となるケースがあります。
企業が採用する労働者の中には難民申請歴があるケースもあり、在留資格や申請状況の確認を怠ると、知らぬ間に不法残留となるリスクがあります。
制度や情報の理解不足
在留資格や更新手続き、資格外活動のルールなど、日本の制度は非常に複雑です。
外国人本人が制度を理解できていない場合、更新漏れや誤った手続きによって不法滞在になることがあります。
また、雇用主側が制度を正しく理解していないことで、必要なサポートが提供できず、結果として労働者が違反状態に陥るケースもあります。
企業が制度を正しく理解し、必要な情報を外国人労働者へ共有する体制を整えることで、不法滞在リスクは大幅に減らすことができます。
不法滞在への対処方法と通報制度

不法滞在が発生した場合、外国人本人だけでなく、雇用している企業にも重大な法的リスクが生じます。
ここでは、不法滞在への対処方法と通報制度について解説します。
入管への出頭(自主申告でペナルティ軽減)
不法滞在が判明した場合、最も重要なのは早期の出頭(自主的な申告)です。
出頭すると、状況に応じて「退去強制」ではなく、より軽い扱いとなる出国命令制度の対象となる可能性があります。
出国命令制度(入管法55条の3)とは、軽微な不法滞在や自主的に出頭、犯罪歴や過去の退去強制歴がないなどの条件を満たした場合に適用され、上陸拒否は1年と軽減されます。
ただし、必ず軽減されるという制度ではなく、出入国在留管理庁の判断に委ねられます。
出頭の際は、在留カードやパスポート、雇用契約書など在留状況が分かる資料を持参することが望ましいでしょう。
企業が従業員の出頭をサポートすることで、事態の早期収拾につながります。
在留特別許可の可能性と専門家(弁護士等)への相談
「在留特別許可」は、本人が申請する制度ではなく、出入国在留管理庁が職権で判断し極めて例外的に与えられる許可です。
対象となり得る事情としては、家族が日本で生活している、子どもが日本の学校に通っていることなどが挙げられます。
ただし、付与されるケースは多くなく専門的な判断が必要です。
弁護士・行政書士に相談し、必要な事情説明や資料作成を行うことが重要です。
不法滞在者を発見した場合の「通報制度」
出入国在留管理庁は、不法滞在や不法就労が疑われる場合に利用できる情報受付フォームを設けています。
このフォームは匿名での通報が可能で、通報者の情報は保護されます。そのうえで、寄せられた情報に基づき出入国在留管理庁が調査を行います。
企業が通報したからといって企業側の罰則が軽減される制度はありませんが、早期に状況を報告したり、意図して不法就労を行わせたわけではないと判断されれば、情状として考慮される場合があります。
企業は、従業員や現場担当者に「不法滞在が疑われる場合の対応手順」を周知しておく必要があるでしょう。
企業が不法就労に加担しないためのチェック体制
企業が不法就労を防ぐためには、以下のチェック体制が不可欠です。
- 雇用前の在留カードの確認
在留資格、在留期間、「就労制限の有無」を必ず確認しましょう。偽造カード対策として、出入国在留管理庁の「在留カード等番号失効情報照会」で番号を照会することをおすすめします。
- 雇用中の在留期限の更新管理
在留期限の管理には注意する必要があるため、期限の一覧表を作成したり、リマインダーで企業側もフォローしたりすることにより、更新時期が近づいたら本人に確認を行いましょう。更新漏れによる不法残留は、企業側の管理体制が問われる可能性があります。
- 外国人雇用状況届出の提出
企業には、外国人労働者を雇用・離職させた際の届出義務があります。「外国人雇用状況の届出」を怠ると、企業側が行政指導の対象になるため確実に行いましょう。
- 信頼できる人材紹介会社の利用
悪質なブローカーや無許可の仲介業者は、不法就労につながる典型例です。優良な紹介事業者かどうか必ず確認しましょう。
- 不法就労が判明した場合の迅速な対応
雇用を即停止し、出入国在留管理庁へ相談します。弁護士に対応を依頼するのも有効です。また、再発防止策を社内で共有することで、企業の法的リスクを最小限に抑えることができます。
まとめ
外国人労働者の不法滞在は、企業に重大な法的リスクをもたらします。
在留期限の管理不足や制度理解の不十分さ、悪質な仲介業者の関与など複数の要因が重なって発生するため、企業は在留カードの確認や更新管理、外国人雇用状況届出の提出など基本的なチェック体制を確実に行う必要があります。
不法滞在が疑われる場合は、早期に専門家や出入国在留管理庁へ相談しましょう。
適切な対応を取ることで、違反の拡大を防ぐことができます。
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