深刻な人手不足が続く林業では、国内の労働力だけでは現場を維持することが難しくなっています。
特に育林や伐採、素材生産といった作業は熟練を要し、担い手の高齢化も進む中で、安定した労働力の確保が急務となっています。
こうした背景から、令和6年に特定技能制度の対象分野として「林業」が正式に追加され、外国人材の活用に注目が集まっています。
この記事では、特定技能「林業」で認められる業務内容、外国人労働者の受け入れ要件、試験や雇用の手続き、そして就労開始までの流れをわかりやすく解説します。
林業経営者の方が制度を正しく理解し、安心して外国人材を採用できるよう、最新の運用要領や法務省・農林水産省の資料をもとに情報を整理します。
この記事の監修きさらぎ行政書士事務所
行政書士 安藤 祐樹
きさらぎ行政書士事務所代表。20代の頃に海外で複数の国を転々としながら農業や観光業などに従事し、多くの外国人と交流する。その経験を通じて、帰国後は日本で生活する外国人の異国での挑戦をサポートしたいと思い、行政書士の道を選ぶ。現在は入管業務を専門分野として活動中。愛知県行政書士会所属(登録番号22200630号)
特定技能「林業」とは
特定技能「林業」とは、人手不足が深刻な特定の産業分野において、即戦力となる外国人が働くことを認める「特定技能制度」の受け入れ対象分野のひとつです。
制度の目的は、国内で確保が難しい労働力を補い、林業の持続的な発展を支えることにあります。
特定技能は全16分野で運用されており、林業は2024年度に新たに追加されました。対象となるのは、一定の知識や技能を要する業務に従事する「特定技能1号」のみで、より高度な熟練者を対象とする「2号」は現時点では適用されていません。
受け入れ対象業務の内容
特定技能「林業」で外国人が従事できる業務は、育林や素材生産などの森林管理に関する作業です。
具体的には、植林前の育苗から始まり、つる切り・下刈り・除伐・枝打ち・伐倒・玉切りといった一連の工程を含みます。
これらは森林資源の維持と木材の安定供給を支える重要な業務であり、一定の知識と技能を要します。
また、主たる作業に付随して日本人が通常従事している関連業務を行うことも認められています。
例えば、林内で行う林産物の製造や加工、機器や工具の保守管理、資材の運搬、事業所の清掃などが該当します。
ただし、これらの関連業務はあくまで補助的な範囲に限られ、専ら従事することは認められていません。
従事内容の中心はあくまで育林や素材生産等の主要業務であることが前提とされています。
在留の条件
2025年11月時点で、林業分野における特定技能の受け入れは1号のみ認められています。
特定技能1号(林業分野)の在留の条件は以下の通りです。
| 特定技能1号「林業」の在留の条件 | |
| 在留資格 | 特定技能1号 |
| 在留期間 | 最大5年 |
| 業務内容 | 育林や素材生産 |
| 技能水準 | 一定程度の知識・技能を有する水準 |
| 日本語能力水準 | JLPT(N4以上)またはJFT-Basic合格水準 |
| 家族の帯同 | 不可 |
| 企業側の支援義務 | 義務あり |
技能実習との関係
技能実習制度には、「林業(育林・素材生産作業)」の職種・作業の受け入れが認められています。
技能実習「林業」と特定技能「林業」は、従事できる作業内容は類似しており、いずれも森林資源の保全と木材の生産を担う業務です。
しかし、技能実習はあくまで技能の習得を目的としており、実習計画に基づいた工程管理が求められます。
一方で、特定技能は即戦力人材としての雇用を前提とするため、同じ業務であっても作業の割合や育成スケジュールを柔軟に調整できる点が特徴です。
特定技能「林業」外国人が受ける2つの試験
特定技能「林業」で就労するためには、林業に関する技能と日本語能力の2つの試験に合格する必要があります。
いずれも一定の知識と実務力を確認するためのものであり、合格者のみが特定技能1号として在留資格を取得できます。
以下では、それぞれの試験内容を詳しく説明します。
林業技能測定試験
林業技能測定試験(林業分野特定技能1号評価試験)は、林業分野で特定技能1号として働くために必要な技能水準を確認するための試験です。
実施主体は一般社団法人林業技能向上センターで、育林や素材生産などに関する知識と実技の能力を評価します。
試験は「学科」と「実技」に分かれており、学科では安全衛生や作業手順、機械操作など林業の基礎的な知識を問われます。
実技では、チェーンソーを用いた伐木作業や道具の取り扱い、安全確認の手順など、現場での作業能力が審査対象となります。
一般社団法人林業技能向上センター|林業技能測定試験(林業分野特定技能1号評価試験)とは
日本語試験
特定技能「林業」で働くには、日本語で基本的なコミュニケーションが取れることを証明する必要があります。
基準となる試験は、「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT)N4以上」です。
JFT-Basicは、コンピュータを使用するCBT形式で実施され、年6回設定された期間内で複数回受験できます。
世界各地の会場で実施されており、日常会話や職場での簡単なやりとりを理解できるかを確認します。
一方、JLPTは7月と12月の年2回、指定の会場で行われる筆記形式の試験です。
語彙・文法・読解・聴解の総合的な日本語力を測定し、N4以上の合格が特定技能取得の要件とされています。
特定技能「林業」企業側の要件
特定技能「林業」で外国人を受け入れるためには、受入企業が制度上の要件を満たしていることが前提となります。
ここからは、企業側に課せられる許可要件を詳しく解説します。
林業特定技能協議会に加入すること
特定技能「林業」で外国人を受け入れるには、受入企業が「林業特定技能協議会」に加入していることが必要です。
この協議会は、外国人労働者の安全確保や適正な雇用管理を目的として設立された組織です。
加入申請は、専用のWebフォームから行うことができ、審査を経て概ね10営業日以内に加入通知書が発行されます。
この通知書は、入管庁への在留資格申請に必要な書類のひとつとして扱われるため、申請前の協議会加入が必須となります。
協議会加入後に会社名や所在地などが変更となった場合は、速やかに変更申請を行う必要があります。
適正な雇用契約を締結していること
特定技能「林業」で外国人を雇用する場合、企業は特定技能の許可基準に適合した雇用契約を締結しなければなりません。
契約内容はフルタイム雇用であることが基本とされ、短時間労働や不安定な就労形態は認められていません。
また、同一の業務に従事する日本人労働者と比較して、報酬水準や待遇が同等以上であることが求められます。
これは、外国人に対する不当な扱いを防ぐための重要な基準です。
加えて、社会保険への加入、有給休暇の取得、福利厚生の利用などにおいても、差別的な取扱いを行ってはならず、特定技能外国人が公平な条件で働ける環境を整備する必要があります。
支援計画を策定し適正に実施すること
特定技能1号の外国人を受け入れる企業は、雇用契約の締結に加えて「支援計画」を策定し、計画に沿って適切に支援を実施する義務があります。
この支援は、生活・職場への定着を目的としており、特定技能外国人の受け入れを継続する限り常に適正に実施しなければなりません。
法令上義務付けられた支援内容は以下10項目です。
- 事前ガイダンス
- 出入国する際の送迎
- 住居確保・生活に必要な契約支援
- 生活オリエンテーション
- 公的手続等への同行
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 転職支援(人員整理等の場合)
- 定期的な面談・行政機関への通報
支援業務は登録支援機関に委託できる
特定技能1号外国人に対する支援は、企業が自ら実施するほか、入管庁の登録名簿に掲載された「登録支援機関」に委託することができます。
登録支援機関は、特定技能外国人の支援を専門的に行う機関であり、法令の基準に適合する支援体制を整えています。
企業が支援業務を登録支援機関に委託した場合は、支援義務を適切に履行したものとみなされます。
労働、社会保険、租税に関する法令を遵守していること
特定技能外国人を受け入れる企業は、労働基準法や労働安全衛生法などの労働関係法令、健康保険法・厚生年金保険法といった社会保険関係法令、さらに税法を含む租税関連法令を遵守していることが求められます。
過去に刑事罰や行政処分を受けているかどうかに関わらず、特定技能外国人の雇用を継続する限り、常に法令違反がないことが求められます。
なお、外国人だけでなく日本人に対する法令違反が認められる場合も、受入機関としての要件を満たさないと判断される点に注意が必要です。
非自発的離職者を出していないこと
特定技能外国人を受け入れる企業は、雇用を予定している業務において、過去1年以内に非自発的離職者を出していないことが求められます。
非自発的離職とは、会社側の都合によって従業員が仕事を失う離職のことです。
定年退職や労働者本人の重大な過失による解雇、有期契約の満了、自己都合退職などは非自発的離職には含まれません。
なお、外国人だけでなく日本人労働者の非自発的離職がある場合も許可要件を満たさないと判断されるため注意が必要です。
外国人の行方不明者を発生させていないこと
特定技能外国人の受入れを行う企業は、過去1年以内に外国人の行方不明者を発生させていないことが条件とされています。
ただし、企業側に行方不明の原因がない場合は不許可の理由にはなりません。
外国人労働者の生活面や職場環境への配慮を怠らず、安心して働ける体制を整えることが、受入れ機関としての適格性を維持するために不可欠です。
出入国または労働法令に関する不正を行っていないこと
特定技能外国人を受け入れるためには、過去5年以内に出入国や労働関係の法令に関する不正や著しく不当な行為を行っていないことが求められます。
この要件は、外国人の権利を保護し、健全な雇用環境を維持するために設けられています。
不正行為には、暴行や脅迫、監禁といった身体的・精神的な圧力を伴う行為のほか、旅券や在留カードの取り上げ、報酬の未払い、私生活への不当な干渉などが含まれます。
こうした行為が確認された場合、企業は特定技能の受入れ機関として認められません。
就労開始までの流れ
林業分野で特定技能外国人を雇用するには、協議会への加入や支援計画の策定など、複数の事前手続きが求められます。
ここからは、雇用開始までの一般的な流れを順に解説します。
協議会に加入する
特定技能「林業」で外国人を受け入れる場合、人材の採用と並行して林業特定技能協議会への加入手続きを行う必要があります。
協議会の加入は受入機関としての前提条件であり、在留資格申請時に加入証明書の提出が求められます。
手続きには一定の期間を要するため、申請スケジュールに余裕をもって準備しておくことが重要です。
外国人材を採用し雇用契約を締結する
特定技能「林業」で外国人を雇用する場合は、技能測定試験や日本語試験の合格など、必要な条件を満たした人材を採用する必要があります。
提示する条件に合う人材が見つかったら雇用契約を締結します。
その際、労働条件や待遇など契約内容について、外国人が理解できる言語で説明を行うことが義務づけられています。
誤解を防ぐため、通訳を交えるなど丁寧な対応が求められます。
在留資格申請を行う
特定技能「林業」で外国人が働くには、出入国在留管理庁の許可を受ける必要があります。
手続きは、海外から新たに入国する場合と、すでに日本に在留している外国人を採用する場合で異なります。
以下、それぞれの受け入れの流れを解説します。
海外からの受け入れの場合
海外にいる外国人を特定技能「林業」で雇用する場合、受入企業が代理人となり、地方出入国在留管理局に対して在留資格認定証明書交付申請を行います。
認定証明書が交付された後、企業はこれを外国人本人へ送付し、本人は自国の日本大使館または領事館で査証(ビザ)の発給申請を行います。
査証が発給されたら、外国人は日本に入国します。
入国後は空港での送迎、市役所等での各種登録、生活オリエンテーションなどの支援を実施し、一連の手続きを経て就労を開始します。
国内在留者を採用する場合
日本に在留している外国人留学生や転職希望者を特定技能「林業」で雇用する場合は、出入国在留管理庁に対して在留資格変更許可申請を行う必要があります。
在留資格変更の審査は1~3カ月程度です。変更許可が出るまでは就労できないため、採用スケジュールには十分な余裕をもたせることが重要です。
変更許可が下りた後は、生活オリエンテーションなどを実施し、住居や生活面での支援を行ったうえで勤務を開始します。
なお、すでに特定技能で在留している外国人が転職する場合も、同様に在留資格変更許可申請が必要です。
その他支援業務や届出業務を行う
特定技能で外国人を雇用する企業は、毎年4月から翌年3月までの受入れ状況などをまとめた定期届出を、翌年度の5月末までに出入国在留管理庁へ提出する必要があります。
また、契約内容の変更や事業所の所在地変更、外国人の行方不明発生などがあった場合には、速やかに随時届出を行わなければなりません。
さらに、特定技能1号の支援業務として定期的な面談や生活支援を継続し、外国人が安心して就労を続けられる環境を維持することが求められます。
まとめ
林業分野で特定技能外国人を受け入れるには、協議会加入、雇用契約の締結、在留資格申請、各種届出など多くの手続きを適切に進める必要があります。
制度の理解が不十分なまま採用を進めると、申請の不備や不法就労のリスクを招くおそれがあります。
受入れを検討している事業者は、まず制度全体の流れを把握し、必要に応じて専門家に相談しながら計画的に採用を進めることが重要です。
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