外国人採用ガイド

技能実習監理団体M&Aのメリットと事業譲渡の流れ、承継手続きの注意点

外国人技能実習制度を支える監理団体は、海外から来日する技能実習生の受入手続きや実習先での支援を担う重要な役割を果たしています。

ところが、近年では運営を継続することが難しくなり、事業譲渡を検討するケースも増加しています。監理団体のM&Aを検討する経営者にとっては、法的な規制や許認可の承継といった専門的な手続きに不安を抱くことも少なくありません。

そこで本記事では、監理団体M&Aのメリットとデメリット、事業譲渡の進め方、さらに承継時に注意すべき要点について整理して解説します。

売却を考える側にも買収を検討する側にも有益な情報をまとめていますので、判断材料としてぜひ役立ててください。

安藤 祐樹この記事の監修
きさらぎ行政書士事務所
行政書士 安藤 祐樹
きさらぎ行政書士事務所代表。20代の頃に海外で複数の国を転々としながら農業や観光業などに従事し、多くの外国人と交流する。その経験を通じて、帰国後は日本で生活する外国人の異国での挑戦をサポートしたいと思い、行政書士の道を選ぶ。現在は入管業務を専門分野として活動中。愛知県行政書士会所属(登録番号22200630号)

監理団体とは

監理団体とは、外国人技能実習制度のもとで受入企業を指導・監督し、実習生が適切な環境で研修できるよう支援する役割を担う団体のことです。

技能実習制度は規制が多く、煩雑な手続きや厳格な実習監理が必要となるため、監理団体は制度を円滑に運用するうえで欠かせない存在です。

さらに監理団体は、受入企業に対して定期的に監査を実施し、労働条件や生活環境が法令に適合しているかを確認します。

加えて、実習計画の作成支援や入国後の講習、生活面のサポートなどを行い、実習生が安心して日本で学べる体制づくりを支援しています。

こうした仕組みが必要となる背景には、大企業を除き一社単独で複雑な技能実習制度の運用を行うことが難しいという事情があります。

多くの中小企業は監理団体の許可を取得している事業協同組合などに加盟して実習生の受け入れを行うのが一般的です。

主な業務内容

監理団体の業務は多岐にわたり、受入企業と技能実習生の双方を支える重要な役割を担っています。

代表的な業務としては、実習先企業に対して定期的または臨時の監査を実施し、法令遵守の状況や労働環境の適正性を確認することが挙げられます。

さらに、外国の送り出し機関との契約や求人・求職の取次、入国前後に必要となる入管庁への申請手続き、来日直後に実施する入国後講習など、技能実習制度を円滑に運用するためのさまざまな業務を担っています。

加えて、実習先企業が策定する技能実習計画の作成を支援し、実習開始後はトラブルが生じた際に実習生からの相談に応じるなど、きめ細やかなフォローを行う点も監理団体の大きな役割です。

非営利の法人のみ運営できる

監理団体を設立する際には、営利を目的とする法人は認められず、非営利法人であることが前提条件となります。

この要件は、技能実習制度が国際協力を理念とし、利益追求ではなく健全で公正な運営を実現することを目的に設けられたものです。

対象となる法人の種類には、商工会議所や商工会、事業協同組合、職業訓練法人、農業協同組合、漁業協同組合、さらには公益社団法人や公益財団法人などが含まれます。

いずれも非営利を基本とする組織形態であり、技能実習生の受入れにあたって制度の趣旨に沿った運営が可能です。

その中でも、実際に監理団体として活動している多くは事業協同組合です。複数の中小企業が共同で組織することにより、単独では難しい実習生の受入れや監理を実現し、制度の持続的かつ安定的な運営を支えています。

事業所数と取扱い職種

令和5年度の時点で、全国における監理団体の事業所数は3,718に達しています。地域別に見ると、愛知県が390で全体の約10.4%を占め最も多く、次いで東京都が370(約9.9%)、大阪府が281(約7.5%)と続き、都市部を中心に集中している傾向が見られます。

一方、業種別の実習実施者(受入企業)の構成では、建設業が全体の約40%を占めており、製造業が約32.9%、農業・林業が約13.9%となっています。

このように、特定の産業分野が技能実習の受入れにおいて大きな割合を占めている点が特徴です。

これらの数値から、監理団体は地域や業種によって分布に偏りがあり、特に建設や製造分野における需要の高さが際立っていることが確認できます。

参照元:外国人技能実習機構|令和5年度における技能実習の状況について(概要)

監理団体M&Aのメリット・デメリット

監理団体のM&Aには、売り手と買い手の双方に大きな利点がある一方で、事前に理解しておくべき注意点も存在します。

ここでは、それぞれのメリットとデメリットについて詳しく解説します。

メリット

売却を検討する側にとっては、M&Aによって後継者不足の課題を解消し、廃業するよりも事業価値を資金化できる点が大きな利点です。

加えて、許可更新や監査対応といった煩雑な事務作業から解放され、監理業務に伴う法的リスクからも退くことが可能となります。

さらに、事業譲渡を通じて既存の組合員や技能実習生への影響を抑えながらスムーズに撤退できる点も大きな魅力です。

事業を廃止する場合と比較して従業員や関係者への負担を軽減でき、地域社会や業界における信頼関係を損なわずに撤退できます。

一方、買収する側にとっては、新たに組合を設立して許可を取得し、監理実績を積み上げる必要がないため、短期間で事業を始動できる点が大きな強みです。

加えて、既に構築された受入企業や送り出し機関とのネットワークを引き継ぐことで、早期の収益化が期待できます。

また、既存の監理体制やマニュアル、教育スキームといったノウハウを包括的に承継できるため、経験不足による運営上のリスクを低減しつつ、事業拡大の基盤を整備できる点もメリットとして挙げられます。

デメリット

売り手にとってのデメリットとしては、譲渡契約後も競業避止義務などの制約が残り、関連分野への自由な参入が難しくなる点が挙げられます。

また、事業譲渡の過程で既存の組合員が離脱したり、海外の送り出し機関との提携が解消されたりするリスクも避けられません。

さらに、非営利法人であるがゆえに買い手候補が限定され、適切な相手先を見つけにくい点も課題となります。

一方、買収する側にとっては監理団体許可や組合認可の承継手続きが煩雑で、計画通りに進まない可能性があります。

加えて、技能実習法や中小企業等協同組合法といった規制の影響により、自由度の高い収益改善を実施しにくい点もデメリットです。

さらに、受入企業との関係が特定の職員に依存している場合、その職員の退職によって契約を失う危険性があり、想定外のリスクが後から顕在化する可能性もあります。

監理団体事業譲渡の流れ

監理団体の事業譲渡を進める際には、複数の段階を踏んで手続きを整える必要があります。

取引の安全性や許認可の維持に直結するため、各工程の流れを理解しておくことが重要です。

1.相手先の選定

監理団体の事業を譲渡する際には、まず適切な相手先を見つけることが極めて重要です。

取引後の安定な事業承継や組合員・実習生への影響を考慮し、信頼性の高い相手を選定することが欠かせません。

相手先の探し方としては、M&A仲介会社を通じた紹介が一般的であり、専門的な知識を活用することで効率的に候補を絞り込むことが可能です。

さらに、マッチングサイトを利用すれば、自ら条件に合う譲受希望者を探す方法も選択できます。

この段階での選定を誤ると、その後の交渉や承継手続きに支障をきたす可能性があるため、条件や相性を慎重に確認しながら進めることが求められます。

2.デューデリジェンス

デューデリジェンスとは、M&Aに先立ち対象団体の財務・法務・人事などを精査し、潜在的なリスクを明らかにする調査手続きです。

これは取引後に思わぬ問題が表面化するのを防ぐために欠かせない工程とされています。

特に監理団体の場合は、技能実習法や中小企業等協同組合法など関連法令の遵守状況を綿密に確認することが求められます。

送出機関との契約や実習生の在留資格申請の適正性に加え、行政指導の有無、実習先の監査記録、帳簿の保存・管理体制など、協同組合としての活動実態も重要な確認項目です。

これらの調査結果を踏まえ、譲渡後に生じ得るリスクを分析し、契約条件や譲渡価額に反映させることが、安全かつ確実にM&Aを進めるための基盤となります。

3.譲渡価額・条件確定

デューデリジェンスで判明した財務状況や法務上のリスクを踏まえ、最終的な譲渡価額や契約条件を確定します。

この段階で譲渡額の妥当性だけでなく、支払い方法や引継ぎの時期など具体的な取り決めについても明確に定めることが重要です。

4.事業譲渡契約締結

両者が譲渡価額や条件面で合意した段階で、正式に事業譲渡契約を締結します。

この契約には、競業避止義務や秘密保持条項などの規定を盛り込み、取引に伴うリスクを回避し、安全性を確保することが求められます。

5.関係機関への許認可対応

事業譲渡後は、事業協同組合の認可や監理団体の許可を維持するため、所管官庁へ変更届などの必要な手続きを速やかに行うことが不可欠です。

行政への届出が遅れると運営に支障を及ぼす可能性があるため、計画的な対応が求められます。

さらに、組合内部でも総会や理事会を開き、役員の変更など必要な議決を整えることが重要です。

6.業務の引継ぎ

許認可手続きと並行して、日常業務の引継ぎにも早期に取り組むことが重要です。

譲受側が円滑に運営を担えるよう、事務処理や管理体制の移行を計画的に進めることが求められます。

引継ぎの対象には、組合員や海外送出機関、技能実習生との契約関係に加え、実習生への支援業務や実習先への監査業務などが含まれます。

業務の停滞は実習生や受入企業に直接影響を及ぼすため、現場レベルでの丁寧な調整が不可欠です。

この移行を着実に進めることで、譲渡後も一貫したサービスを維持でき、関係者への混乱を最小限に抑えることが可能となります。

監理団体事業承継手続きの注意点

事業承継の過程では、法律上の要件や組合員への説明など、見落としやすいポイントが多く存在します。

ここからは、手続きを円滑かつ適正に進めるために押さえておくべき具体的な注意事項を解説します。

事前に組合員の合意が必要

監理団体を担う事業協同組合の役員は、定款の定めるところにより、総会での選挙によって選任されるため、買収側が役員に就任するには組合員の承認を事前に得ておくことが重要です。

組合員の同意が得られなければ役員変更は実現せず、結果として事業譲渡のスケジュールに大きな影響を及ぼす可能性があります。

したがって、M&Aを進める際には、交渉段階から組合員への説明や合意形成を丁寧に行うことが不可欠です。

欠格事由に該当すると役員になれない

監理団体の許可基準には多くの欠格事由が定められており、そのいずれかに該当すると役員に就任できません。

買収を実施しても、新たな役員候補者が欠格要件に当たれば事業運営に直接関与できず、M&Aの前提を揺るがす重大な問題となります。

特に注意すべきなのは、過去5年以内に労働関係法令違反で罰金刑を受けた場合の欠格事由です。

これは技能実習生に対するものに限らず、日本人労働者を対象とした法令違反も含まれる点が特徴です。

したがって、監理団体の承継を検討する際には、新たな役員候補者の処罰歴に加えて関連会社や他事業での法令遵守状況を詳細に確認することが不可欠です。

これにより、想定外の要件不適合リスクを排除し、安全に承継を進めることが可能となります。

監理事業以外の許認可を取得している場合がある

監理団体の中には、技能実習の監理事業に加えて特定技能の登録支援機関として許可を受け、特定技能に関する支援業務を並行して行っているケースも少なくありません。

この場合、M&Aを検討する際には、買収後の職員体制が登録支援機関に必要とされる支援責任者や支援担当者の要件を満たしているかどうかを併せて確認することが重要です。

また、事業協同組合が厚生労働大臣の認可を受けて労働保険事務組合として業務を行っている場合もあり、その際には認可を維持するための条件確認や役員変更に伴う手続きを適切に行うことが求められます。

監理団体の事業譲渡においては、技能実習に関する許可だけでなく並行して取得しているその他の認可についても正確に把握し、必要な変更届や承認手続きを漏れなく実施することが重要です。

介護分野は固有の職員配置要件がある

介護分野で技能実習を扱う監理団体は、固有の職員配置要件を満たすことが義務付けられており、「介護技能実習に関して十分な知識と経験を備えた専任職員」を配置する必要があります。

対象となる人材には、看護師または准看護師の資格を有し5年以上の実務経験を持つ者が含まれるほか、介護施設の管理者として3年以上勤務した経歴を有する者や、介護支援専門員として5年以上従事した経験を持つ者も該当します。

そのため、売却側の人員に介護福祉士として長年の実務経験を積んだ職員が含まれている場合、M&Aによりその人物が退職すると要件を満たせなくなる可能性があります。

買収側としては、介護分野の事業を継続するために、同等の資格や経験を持つ代替人材を確保することが不可欠です。

技能実習制度は廃止され育成就労制度に変わる

技能実習制度は長年にわたり多くの課題が指摘されてきたことから廃止が決定し、育成就労制度への移行が進められることになりました。

育成就労制度は2027年に施行され、その後およそ3年間は技能実習と併行して運用される予定です。

そして2030年には技能実習制度が完全に廃止され、新制度へ一本化されます。この制度変更に伴い、監理団体は新たに監理支援機関として位置づけられ、従来の業務内容も見直しが必要となります。

もっとも、育成就労制度の詳細は現時点で未確定の部分も多く、今後の制度設計によって要件や業務範囲が変わる可能性があります。

そのため、監理団体のM&Aを進める際には、将来的に監理支援機関として再申請を求められる可能性を想定し、制度改正への備えを意識することが重要です。

まとめ

本記事では、監理団体の基本的な仕組みや業務内容、M&Aによるメリットとデメリット、事業譲渡の進め方に加え、承継時に注意すべき点を整理しました。

さらに、技能実習制度の廃止と育成就労制度への移行といった今後の制度改正にも触れ、将来に備える必要性を確認しました。

監理団体の譲渡や承継を検討する際には、制度理解と具体的な準備が欠かせません。

M&Aを通じて双方が適切な利益を得るためにも、法令遵守や組合員との合意形成を丁寧に進めることが重要です。不明点や不安がある場合は、専門家に相談しながら計画的に取り組むことをおすすめします。

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