外国人採用ガイド

特定技能の新分野「自動車運送業」はいつから始まる?業務内容や許可要件、試験概要などを徹底解説

近年、自動車運送業界を取り巻くさまざまな規制強化や深刻化する人材供給の不足を背景とした、日本国内の輸送インフラの能力低下を懸念する声が日増しに膨らんでいます。

2030年には、輸送力の供給不足により「全国で35%の荷物が運べなくなる」と言われており、業界団体を始めとした関係者は、輸送コストの急激な増加やサービス品質の低下などに危機感を募らせています。

この記事では、自動車運送業界で外国人材を受け入れるための在留資格「特定技能(自動車運送業)」の受け入れ開始時期や業務内容、在留資格取得要件、各種試験の概要などについて詳しく解説します。

安藤 祐樹この記事の監修
きさらぎ行政書士事務所
行政書士 安藤 祐樹
きさらぎ行政書士事務所代表。20代の頃に海外で複数の国を転々としながら農業や観光業などに従事し、多くの外国人と交流する。その経験を通じて、帰国後は日本で生活する外国人の異国での挑戦をサポートしたいと思い、行政書士の道を選ぶ。現在は入管業務を専門分野として活動中。愛知県行政書士会所属(登録番号22200630号)

特定技能「自動車運送業」とは

令和6年3月29日、政府の実施する「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」において、特定技能の受け入れ対象分野の枠組みに、自動車運送業を追加することが閣議決定されました。

この決定により、自動車運送業を営む企業は、人手不足の解消を目的に、特定技能の在留資格を持つ外国人ドライバーを受け入れることが可能になりました。

受け入れ対象業務は3種類

自動車運送業で特定技能外国人を受け入れ可能な業務区分は、「バス運転者」「タクシー運転者」「トラック運転者」の3種類です。

分野名 自動車運送業
業務区分 バス運転者、タクシー運転者、トラック運転者
在留資格 特定技能1号
所管官庁 国土交通省

いつから受け入れ開始されるのか

令和6年12月19日に自動車運送業分野の上乗せ基準告示が施行されたことにより、特定技能外国人を受け入れることが可能となりました。

ただし、外国人が特定技能の在留資格を取得し、自動車運送業の分野で働くためには、運転免許の取得や技能評価試験の合格など、複数の要件を満たさなければならないため、実際の受け入れは令和7年以降に徐々に活発化していくことになるでしょう。

自動車運送業の業務内容

特定技能「自動車運送業」の各区分の業務内容は以下の通りです。

業務区分 主な業務
バス運転者、タクシー運転者 運行業務および接遇業務など
トラック運転者 運行業務および荷役業務など

なお、全ての業務区分において、上記の業務内容以外に「車両の清掃」や「運行前後の準備・片付け」など、日本人従業員が通常行う自動車運送関連業務に付随的に従事することも可能です。

ただし、関連業務への従事は「付随的な従事」に限られるため、専任的に行うことはできません。

また、日本人従業員が通常行う自動車運送関連業務であっても、「試験などで専門性が確認される業務」に従事することはできないため、「自動車整備士」などの資格が必要な業務や特定技能「自動車整備」に該当する業務などと混同しないように注意してください。

在留資格取得の要件

自動車運送業分野で特定技能1号の在留資格を取得するためには、特定技能1号の基本的な許可要件以外に、この分野特有の資格取得や業務区分ごとに定められた上乗せ基準をクリアしなければなりません。

特定技能1号の基本的な許可要件

特定技能1号の在留資格を取得するために満たさなければならない基本的な要件は以下の通りです。

  • 日本上陸時に18歳以上であること
  • 健康状態が良好であること
  • 相当程度の技能・知識を有していることが試験などで証明されていること
  • 必要な日本語能力を有していることが試験などで証明されていること
  • 法務大臣が告示で定める国・地域の旅券を所持していること
  • 特定技能1号の在留期間が通算5年に達していないこと
  • 本人や親族等が不当に財産を移転する契約を締結していないこと
  • 本人が外国の機関に費用を支払っている場合は金額や内容を理解していること
  • 送り出し国側の法令を遵守し必要な手続きを経ていること
  • 食費や家賃などの定期負担金について金額が適正かつ本人が合意しており明細が発行されること

申請人(外国人)側に課せられる分野特有の要件

自動車運送業分野で就労する外国人は、特定技能1号の在留資格を取得する前に、以下の試験に合格する必要があります。

業務区分 技能試験 日本語試験 運転免許
バス運転者、タクシー運転者 特定技能1号評価試験(バス・タクシー) JLPT(N3)以上 第二種運転免許
トラック運転者 特定技能1号評価試験(トラック) JLPT(N4)以上またはJFT-Basic合格 第一種運転免許

また、バス運転者とタクシー運転者は、特定技能1号の在留資格を取得する前に、「新任運転者研修」を修了することが必要です。

受入れ企業側に課せられる分野特有の要件

自動車運送業分野で特定技能1号の外国人を受け入れる企業は、以下の基準を満たす必要があります。

  • 自動車運送事業を行う者であること
  • 安全性優良事業所(Gマーク)の認定を受けた事業者であること
  • 自動車運送業分野特定技能協議会の構成員であること
  • 自動車運送業分野特定技能協議会に必要な協力を行うこと
  • 国土交通省が行う調査・指導に協力すること
  • 旅客自動車運送事業の場合は新任運転者研修を実施すること

雇用契約に関する注意点

自動車運送業分野では、労働者派遣契約で特定技能1号の在留資格を取得することはできません。

直接雇用を前提に許可を取得した特定技能1号外国人を他社に派遣した場合、または他社から派遣を受け入れた場合は、入管法違反や著しく不当な行為とみなされ、特定技能外国人の受け入れが5年間停止される可能性があるため、注意が必要です。

特定技能2号について

2025年3月現在、自動車運送業分野には特定技能2号の受け入れ制度はありません。

今後、特定技能2号の枠組みが追加される可能性はありますが、国土交通省は、「現時点では2号追加は未定」と説明しています。

技能実習・育成就労の関連職種について

多くの産業分野において、技能実習2号または3号を良好に修了した技能実習生が特定技能1号に移行する場合、特定技能で従事する予定の業務と技能実習で修得した技能に関連性が認められれば、「特定技能1号評価試験」の受験が免除されます。

しかし、特定技能1号の自動車運送業分野は、関連する技能実習の職種が存在しないため、「特定技能1号評価試験」の免除制度がありません。

なお、トラック運転者の日本語試験(N4相当以上)については、職種・作業の種類を問わず、技能実習2号または3号を良好に修了していることをもって、受験が免除されます。
※バスやタクシー運転者の日本語能力試験(N3以上)には免除制度がありません。

また、2027年以降、「技能実習」が廃止され「育成就労」の制度に移行しますが、自動車運送業分野と関連する育成就労の分野が追加されるかどうかは現状不明です。

特定技能と育成就労の受け入れ対象分野は、原則一致させる予定であると公表されていますが、自動車運送業分野では運転免許の取得が在留資格取得の前提となることを考慮すると、育成就労の制度とはなじまない分野であると判断され、追加が見送られる可能性もあります。

自動車運送業分野の各種試験の概要

自動車運送業分野で特定技能1号の在留資格を取得するためには、以下の試験に合格する必要があります。

  • 自動車運送業分野特定技能1号評価試験(トラック、バス、タクシー)
  • 日本語試験(JLPT、JFT-Basic)
  • 自動車運転免許(第一種または第二種)

自動車運送業分野特定技能1号評価試験

自動車運送業分野の特定技能1号評価試験は、2024年12月16日に第1回試験が開催されました。2025年3月時点で公表されている試験の概要は以下の通りです。

試験の種類 ・トラック
・バス
・タクシー
試験形式 ・出張方式(試験会場でペーパーテストを受験)
・CBT方式(テストセンターでコンピュータを使用して受験)
受験資格 ・受験日において、年齢が満17歳以上(インドネシアの試験では満18歳以上)であること
・受験日において、日本または外国の有効な運転免許を有していること
・日本国内で受験する場合は何らかの在留資格を有していること
・法務大臣が告示で定める国・地域の旅券を所持していること
技能実習(2号または3号)修了者の試験免除 なし
試験実施国 インド、インドネシア、ウズベキスタン、カンボジア、キルギス、スリランカ、タイ、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、マレーシア、ミャンマー、モンゴル、ラオス、日本
受験料 ・5,000円(日本国内)
・37米ドル(海外)
※為替レートの変動により改定される可能性があります。
合格証明書発行手数料 14,000円(税抜)

なお、日本国内で開催される試験については、2025年3月3日のCBT方式の受付開始に伴い、出張方式の試験受付は3月末で終了となります。

日本語試験(JLPT、JFT-Basic)

自動車運送業分野で特定技能1号の在留資格を取得するために求められる日本語能力の基準は以下の通りです。

業務区分 必要な日本語能力 試験免除制度
トラック運転者 日本語能力試験(JLPT)N4以上または国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)合格 技能実習(2号または3号)を良好に修了した者は、業務の関連性を問わず日本語試験免除
バス、タクシー運転者 日本語能力試験(JLPT)N3以上 なし

自動車運転免許

自動車運送業分野で特定技能1号の在留資格を取得するためには、申請人(外国人本人)が自動車運転免許を保有している必要があります。

必要な運転免許の種類は、トラック運転者が「第一種運転免許」、バスおよびタクシー運転者が「第二種運転免許」です。

日本国内で有効な運転免許を取得する方法には、各都道府県公安委員会が実施する運転免許試験に合格して取得する方法と、外国の運転免許を日本の運転免許に切り替える方法(外免切替)の2種類があります。

運転免許試験に合格して取得する方法

業務区分 運転免許の種類 受験資格
トラック 第一種運転免許 ・普通免許:18歳以上
・準中型免許:18歳以上・中型免許:20歳以上かつ普通免許、準中型免許、大型特殊免許いずれかの保有期間が2年以上・大型免許:21歳以上かつ中型免許、普通免許、準中型免許、大型特殊免許いずれかの保有期間が3年以上
バス・タクシー 第二種運転免許 21歳以上かつ大型免許、中型免許、普通免許、準中型免許、大型特殊免許いずれかの保有期間が3年以上

なお、「受験資格特例教習」を受講すれば、19歳以上かつ運転経歴1年以上で、中型免許、大型免許、第二種免許の受験資格を得ることが可能です。

外免切替により日本の運転免許を取得する方法(第一種のみ)

外免切替とは、外国で取得した運転免許を試験免除で日本の運転免許に切り替える制度のことです。切り替えが可能な運転免許は、第一種運転免許に限られます。

通常、日本の運転免許を取得するためには、「適正」「技能」「知識」の3項目の基準を満たす必要があります。

外免切替を希望する者は、運転免許試験場で「知識確認」および「技能確認」を受け、その結果、一定の基準を満たした場合に「学科試験」および「実技試験」が免除されます。

ただし、以下の国の運転免許からの切り替えの場合は、日本と同等水準の免許制度を有しているなどの理由により、「技能確認」または「知識確認・技能確認の両方」を受けることなく試験免除されます。なお、たとえ有効な外国免許を保有していても、その国に過去に通算3カ月以上滞在していない場合は、日本の運転免許に切り替えることはできません。

知識確認・技能確認の両方が免除される国 技能確認のみ免除される国
アイスランド、アイルランド、アメリカ合衆国(オハイオ州、オレゴン州、コロラド州、バージニア州、ハワイ州、メリーランド州、ワシントン州)、イギリス、イタリア、オーストラリア、オーストリア、オランダ、カナダ、韓国、ギリシャ、スイス、スウェ-デン、スペイン、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ニュージーランド、ノルウェ-、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、モナコ、ルクセンブルク、台湾 アメリカ合衆国(インディアナ州)

運転免許取得のための特定活動(自動車運送業準備)

自動車運送業分野で特定技能1号の在留資格を取得するためには、在留資格の申請時点において、日本国内で有効な自動車運転免許の取得が必要です。

そのため、日本の運転免許を保有していない海外居住者が、特定技能1号でこの分野の就労許可を得るためには、事前に別の在留資格で日本に滞在しながら有効な運転免許を取得し、その上で在留資格を特定技能1号に変更する必要があります。

このような自動車運送業分野特有の事情を考慮して、日本の運転免許取得のための在留資格として創設されたのが「特定活動55号(自動車運送業準備)」です。

この特定活動で認められる活動内容は以下の通りです。

  • 運転免許取得手続き(外免切替、教習所への通所含む)
  • 新任運転者研修の受講(バス、タクシーのみ)
  • 車両清掃などの自動車運送業関連業務

なお、この特定活動は運転免許の取得や研修の受講などを目的とした在留資格ですが、雇用契約の締結や外国人に対する支援義務など、特定技能1号の申請と同等の要件を満たされなければ許可を取得することはできません。

特定活動55号(自動車運送業準備)の概要は以下の通りです。

在留資格の種類 特定活動55号(自動車運送業準備)
在留期間 ・トラック運転者(6カ月)
・バス、タクシー運転者(1年)
在留期間更新の可否 更新不可
協議会への加入義務 自動車運送業分野特定技能協議会への加入が必要
在留資格変更の注意点 運転免許の取得、新任運転者研修の修了など特定技能1号への移行要件を満たした後は速やかに在留資格の変更が必要
その他の許可要件 特定技能1号(自動車運送業)と同等の基準を満たすことが必要
特定活動55号の在留期間の取扱い 特定技能1号の通算在留期間(5年)に含まれない

まとめ

この記事では、特定技能に新たに追加された「自動車運送業分野」の業務内容や在留資格取得要件、各種試験の概要などについて解説しました。

自動車運送業分野には、運転免許取得のための特定活動55号(自動車運送業準備)など、特別な受け入れ制度があるため、事前にこれらの制度を十分理解した上で採用計画を立てる必要があります。

この分野での外国人材受け入れを円滑に進めるためには、在留資格制度に加えて、自動車運送業界特有の労働安全上の規制についても熟知している人材紹介業者や登録支援機関を見つけることが重要です。

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