外国人採用を進める際には、雇用条件や仕事内容の整備だけでなく、外国人労働者が日本で快適に生活できる環境づくりも重要です。しかし、多くの外国人労働者は日本での生活において様々な困難に直面しています。
日本人にとって当たり前のことでも、外国人にとっては馴染みのないことが多くあります。例えば、行政手続き、住居の確保、各種ライフラインの契約などは複雑で、日本語能力が高くない特定技能外国人や技能実習生にとっては、独力で生活基盤を整えることは決して簡単なことではありません。
本記事では、特定技能外国人・技能実習生が日常生活で直面する困難と、受け入れ企業に求められる支援内容について詳しく説明します。
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(株)アルフォース・ワン 代表取締役
山根 謙生(やまね けんしょう)
日本人、外国人含め「300社・5,000件」以上の採用支援実績。自社でも監理団体(兼 登録支援機関)に所属し、技能実習生・特定技能外国人の採用に取り組んでいる。外国人雇用労務士・外国人雇用管理主任者資格保有。(一社)外国人雇用協議会所属。
外国人労働者が生活の中で困っていること
特定技能外国人や技能実習生として、就業や研修のために来日する外国人は、事前にある程度の日本語や日本での生活などについて学習できる事前研修を受けています。
しかし、ある程度の知識があったとしても、実際に日本で働き、生活する中で困ることは多くあります。
特に、受入れ企業の目が行き届かない日常生活では困ることが多々あり、周辺住民とトラブルになることも少なくありません。
特定技能外国人・技能実習生は日本での生活においてどのようなことで困っているのでしょうか。受け入れ先に求められる支援内容と併せて見ていきましょう。
日本の慣習や生活ルールなど
特定技能外国人や技能実習生にとって、日本の慣習や生活ルールは馴染みがありません。そのため、悪気なくルールやマナーを破ってしまい、孤立につながってしまうことが懸念されます。
例えば、ゴミの捨て方一つとっても、国によって大きく異なります。
日本では指定のゴミ袋がある他、曜日によって回収されるゴミが異なるため、それらを理解して正しく捨てなければなりません。
「アパートのゴミ捨て場にゴミが置いてあるから、いつでも何でも捨ててもよい」といった考えをしてしまうと、周辺住民からのクレームや管理会社とのトラブルに発展してしまうこともあります。
また、日本では近隣に迷惑をかけないよう、生活音などにも気を付けて生活しなければならないという暗黙のルールがあるといえるでしょう。しかし、国によっては多数の友人たちと自宅で騒ぐことや、大音量の音楽をかけて歌ったり踊ったりすることが当たり前の人達も存在しています。
外国人側に悪気がある訳ではないのかもしれませんが、日本の慣習や生活ルールを守らなければ周囲からの印象は悪くなり、外国人本人も居心地が悪くなってしまうでしょう。
住居に関すること
技能実習生以外の在留資格者については、外国人自身が住居を契約する場面も出てきます。
日本人でも賃貸住宅などの物件を借りる時には多くの手続きが必要となるため、日本語能力の低い外国人が独力で物件を借りることは困難なことは容易に想像がつきます。
賃貸物件を契約する場合、在留資格はもちろんのこと、家賃の支払い能力などについて審査されます。家賃以外にも、敷金・礼金や各種保険料といった費用がかかる他、保証人が必要となることも多いため、物件を借りるハードルは高いです。
また、外国人の場合、各地域に関する情報も持っていないため、住みやすいエリアや地域の雰囲気を事前に把握することも難しいです。通勤に不便な駅や治安の悪いエリアを選んでしまうこともあるかもしれません。
自分に合ったエリアや物件を探し、不動産屋さんで外国人OKの物件を契約し、居住環境を独力で整えることは難しいと言えるでしょう。
スマートフォンやネット回線の契約
外国人労働者にとっても、スマートフォンや通信環境は必須となっています。
しかし、スマートフォンやネット回線を契約するためには本人確認書類の他、キャッシュカードや銀行口座通帳など、必要な書類が多くあります。役所や金融機関での発行が必要な書類も含まれるため、時間も手間もかかります。
また、各種契約のために窓口に行っても、日本語での説明や書面内容を理解しなければならないため、手続きのハードルは高いです。
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クレジットカードの契約
日本人であっても、安定した収入がない人や、過去の履歴によってはクレジットカードの審査に落ちてしまうこともあります。
外国人の場合はさらに審査項目が多くなるため、クレジットカードを作成するハードルは高く、審査に通る人は限られてしまいます。
外国人がクレジットカードの審査にパスするためには、以下の項目を最低限クリアしておく必要があります。
- 就労可能な在留資格を有していること(留学も可)
- 日本に住所と電話番号があること
- 必要な本人確認書類の提出できること
また、収入が不安定であるため審査に通らないことも多いですが、日本語の読み書きがネックになってしまうケースも少なくないようです。
ライフラインに関すること
ライフラインに関する手続き全般は、日本人にとっても複雑で分かりにくいものですので、家族や友人に教えてもらいながら手続きを行った経験がある人もいるのではないでしょうか。
賃貸住宅の場合、水道や電気などといった生活インフラは手続きを行わなければ利用できません。これらの手続きは、書類作成を含め日本語で行う必要があります。
ライフラインの手続きを行うために必要な書類作成や手続き方法の説明は、漢字なども含まれた難しい文章で書かれていることがほとんどです。そのため、外国人の多くが、手続きの方法が分からない、説明書になんて書いてあるのか読めないといった問題を抱えることになります。
公的手続きに関すること
行政手続きに関する書類の作成や手続きは日本人でも面倒に思うことがありますよね。
日本についての知識が乏しく、日本語を苦手とする特定技能外国人や技能実習生が手続きを独力で行うことは難しいでしょう。
外国人労働者が行わなければならない行政手続きには、一例として以下のものがあります。
- 社会保障、及び税に関する届出
- 所属機関などに関する届出
- 住居地に関する届出
- その他の行政手続き
- 国民年金
- 国民健康保険
- その他の更新、及び変更など
いずれの手続きも日本で生活する上で不可欠な手続きです。しかし、手続きに必要な書類には漢字や難しい日本語が使われており、日本語能力の高くない外国人が正しく理解することは難しいといえるでしょう。
また、公的手続きでは、市役所の職員と日本語でコミュニケーションを取る場面もあります。各種外国語を話せるスタッフが常駐していない自治体がほとんどですので、外国人と上手く意思疎通ができず、手続きを上手く行えないという課題もあります。
食に関すること
食事は、身体や心の健康維持にとって重要なのは言うまでもありません。しかし、食べ物は、文化や宗教に大きく影響を受けるため、外国人労働者の母国や宗教によっては、食べられる食材や料理を見つけることからのスタートになります。
例えば、イスラム教徒はハラール食品を必要とし、豚肉や酒類を避けます。ユダヤ教徒はコーシャ食品を求め、豚肉や甲殻類を食べません。ヒンドゥー教徒の多くは牛肉を避けます。日本では、これらの宗教的要件を満たす食品や飲食店を見つけるのが難しい場合があります。
日本の料理には酒が調味料として使われたり、豚に由来する成分が含まれていることも多く、イスラム教徒やユダヤ教徒にとっては頭を悩ませる問題となります。また、出汁として魚や肉のエキスが使われることも多いため、ベジタリアンやヴィーガンにとっても注意が必要です。
このような理由から、宗教的な食事制限やベジタリアン、ヴィーガンの外国人労働者は、日本で適切な食事を見つけることに苦労する可能性があります。企業側は、適切な食事を提供したり、近隣の適切な飲食店や食材店の情報を提供するなどの配慮が必要になるでしょう。
日本人特有の曖昧な表現
外国人は自分の意見をはっきりと表すのに対し、日本人は「本音と建て前」を使い分けながら、遠回しな表現で物事を伝える人も多いです。
例えば、日本人はNoの場合でも「前向きに検討しますね」「近いうちに飲みにいきましょう」といった言葉を使います。文字通りに受け取ると可能性があるように感じますが、実際に使用される場面ではNoに近い返答といえるでしょう。
そのため、外国人はこうした返答をされると、必要以上に期待したり誤解したりすることもあります。
また、日本人は相手への配慮や親切心から遠回しな表現を使っているため、自身の考えや意見をストレートに表現する外国人の態度に快く思わない人も少なからず存在します。
日本特有のビジネス文化
日本のビジネス文化は他国と比較して、より形式的で階層的であると言えるでしょう。
日本人は礼節やおもてなしを大切にする文化を持っているため、お客様やクライアントに対して敬意を示し、丁寧な対応をすることが一般的です。これは「低く構える」というよりも、相手を尊重し、適切な距離感を保つことを意味します。
日本のビジネスシーンでは、初めて会う相手に対して握手をすることはありますが、ハグをすることは稀です。一方で、ビジネスシーンで握手やハグが慣習となっている国も多くあります。
他国の文化に馴染みがない取引先に対し、外国人労働者がハグをしたり、過度に親密な態度を取ったりすると、違和感を抱かれてしまうこともあります。そうなると、自社のイメージがダウンするだけでなく、あたたかい気持ちからそのような行動をとった外国人の心が傷付いてしまうことにもつながりかねません。
また、日本のビジネスシーンでは服装について細やかな規定があります。特に、スーツの色や靴の種類、女性の場合はスカートの長さやメイクなどについて暗黙の了解があります。服装に規定が少ない国から来日した外国人にとっては、日本特有の細やかな服装の規定に困惑する人もいるでしょう。
さらに、日本独特の慣習として、名刺交換、上座・下座の概念、飲み会文化なども外国人労働者にとっては新しい経験となる可能性があります。これらの文化的な違いについて、事前に説明し、理解を促すことが重要です。
外国人労働者の生活を支援する機関
ここまで見てきたように、日本で働きに訪れる外国人はさまざまな困りごとを抱えています。
受け入れ企業は、就業時間中はもちろんのこと、生活面でもサポートすることが求められています。
しかし、自社に外国人をサポートする余裕やノウハウがなかったり、日本語が得意ではない外国人とうまくコミュニケーションを取れる日本人社員がいないという企業も多いはずです。
特定技能外国人や技能実習生の受入れ体制が整っていない企業には、外国人労働者のサポートを請け負っている専門家に依頼することをおすすめします。
以下に、外国人労働者の仕事や生活を支援する機関を3つ紹介します。
監理団体
監理団体とは、海外にある技能実習生の送り出し機関と契約を結んで、日本の受入れ企業の代わりに技能実習生の受入れや、その活動および受入れ企業へのサポートを行う非営利団体のことで “技能実習生と受入れ企業の橋渡し役”と言えます。一般的には、「協同組合」の法人格を持っていることが多いです。
海外現地での技能実習生の募集から面接手配、受入れに向けた各種準備や手続き、就業開始後の支援や監査対応など、技能実習制度が適正に運用されるよう、実習生と受入企業の間に立ち、両者を支援し監督します。
登録支援機関
登録支援機関とは、特定技能外国人の支援計画の作成や支援の実施を行う機関です。
登録支援機関は出入国在留管理庁から登録を受けており、企業が外国人を雇い入れるにあたって必要となる業務全般のサポートを行います。 企業は登録支援機関を活用することで、外国人労働者に関する以下のようなサポートを受けられます。
- 外国人に対する入国前のガイダンス
- 入国時の空港などへの出迎え
- 生活オリエンテーションの実施
- 住宅支援
- 預貯金口座の開設、携帯電話の利用に関する契約手続き
- ライフラインの契約手続き
- 言語面の支援
- 日本語学習サポート
- 外国人からの相談、及び苦情への対応
- 外国人と日本人との交流の促進の場の提供
- 在留資格関連手続きの情報提供
外国人と接することに慣れていない企業にとって、雇用する外国人の生活支援を全般的に行うことは容易ではありません。また、人材不足の企業の場合、外国人のサポートで従来の業務に支障が出ることも懸念されます。
登録支援機関を活用することで、効率的に外国人労働者を受け入れ、十分な支援を実施することができます。
ボランティア団体や学生団体
外国人を支援しているNPO法人、ボランティア団体や学生団体も多く存在します。
例えば、語学力があり異文化に関心がある大学生たちによって運営されている団体では、各機関と連携して日本で暮らす外国人のサポートを行っており、空港への出迎え、行政手続きの付き添い、生活相談などを受け付けています。
また、日本において孤立しがちな外国人の居場所を作るため、交流イベントの開催や日本語学習支援、多言語での情報提供といった活動を行っている団体もあります。
外国人労働者を受け入れたいが、自社で生活面まで対応できない企業や、ノウハウがない企業は、地域の国際交流協会や外国人支援団体に相談してみるのもよいでしょう。ただし、これらの団体は主に生活支援を行っており、労働に関する専門的な支援は限られている場合があることに注意が必要です。
まとめ
特定技能外国人・技能実習生は、来日前に日本語や日本の慣習、文化について一定の学習をしています。
しかし、本記事でまとめた通り、異国で暮らし働くことには多くの課題があります。そのため、業務のサポートはもちろんのこと、生活面のサポートも非常に重要となります。
適切なサポートを怠ると、特定技能外国人・技能実習生の不満がたまり、早期退職や失踪につながる可能性もあります。また、十分な支援がないと、日本のルールや文化への知識不足から、近隣住民とのトラブルを引き起こす恐れもあります。
自社で特定技能外国人・技能実習生への全面的なサポートが難しい場合は、監理団体や登録支援機関の利用をおすすめめします。これらの団体・会社を有効に活用することで、外国人労働者への適切な支援を確保し、円滑な受け入れと共生を実現できるでしょう。
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