外国人材の雇用を検討中の企業にとって、特定技能と技能実習の違いを理解することは非常に重要です。
しかし、両制度の要件や特徴は非常に複雑で、どちらを選ぶべきか迷っている企業も多いのではないでしょうか。
この記事では、特定技能と技能実習の制度概要から、入国要件・メリット・デメリット・企業の制度選択のポイントまで、両制度の違いを詳しく比較・解説します。
この記事を最後まで読むことで、自社の業界や職種、方向性に合った外国人材の受入れ方法を見つける手がかりが得られるはずです。
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(株)アルフォース・ワン 代表取締役
山根 謙生(やまね けんしょう)
日本人、外国人含め「300社・5,000件」以上の採用支援実績。自社でも監理団体(兼 登録支援機関)に所属し、技能実習生・特定技能外国人の採用に取り組んでいる。外国人雇用労務士・外国人雇用管理主任者資格保有。(一社)外国人雇用協議会所属。
制度の目的や対象職種の違い
まず、特定技能と技能実習、それぞれの制度の目的と対象分野・職種、そして基本的な違いについて説明します。
特定技能制度の目的と対象分野
特定技能制度は、特定の産業における、深刻化する人手不足への対応を目的として導入された制度です。
在留資格の取得ハードルは技能実習よりも高く、技能試験と日本語能力試験の合格が必要です。
特定技能1号では、「介護/ビルクリーニング/工業製品製造業(素形材、産業機械製造、電気・電子情報関連)/建設/造船・舶用工業/自動車整備/航空/宿泊/自動車運送業/鉄道/農業/漁業/飲食料品製造業/外食業/林業/木材産業」の16分野が対象となっています。
※2024年3月に新たに追加された「自動車運送業/鉄道/林業/木材産業」の受け入れ開始時期は未定。
特定技能では、単純労働を含む幅広い業務への従事が認められています。ただし、単純労働のみを行うことは認められておらず、他の業務に付随する形で従事することが条件となります。
技能実習制度の目的と対象職種
一方、技能実習制度は、開発途上国への技能移転による国際貢献を目的とした制度です。
基本的な技能や試験要件はなく、未経験者でも受入れが可能です。
技能実習制度では、製造業、建設業、農業などの基礎的な技能職種を中心に、90職種と幅広い分野での受け入れが可能です。
技能実習では、専門性の高い作業を習得ために日本に学びに来ているため、単純労働に従事させることはできません。
入国要件と在留期間の違い
特定技能と技能実習では、入国時に求められる要件と在留期間に大きな違いがあります。
ここでは、それぞれの制度の入国要件と在留期間について詳しく見ていきましょう。
特定技能の入国要件と在留期間
特定技能の在留資格を取得するには、分野別の技能試験に合格していることが必須です。さらに、日本語能力試験N4以上の日本語能力が求められます(技能実習2号を修了している場合は免除)。
在留期間については、特定技能1号では通算5年まで在留することができます。
特定技能2号にステップアップすれば更新回数に制限がなくなり、さらに長期的な就労が可能となっています。最終的には、在留資格「永住」を取得することも可能です。
ただし、特定技能2号の対象職種は限定的であることに注意が必要でしょう。
ビルクリーニング/工業製品製造業/建設/造船・舶用工業/自動車整備/航空/宿泊/農業/漁業/飲食料品製造業/外食業
技能実習の入国要件と在留期間
技能実習では、介護職種を除いて入国時の技能要件はありません。
技能実習は基礎から技能を学ぶことを前提としているため、意欲と基本的なコミュニケーション能力があれば受け入れ可能です。
在留期間は段階的に設定されており、技能実習1号から3号まで最長で5年間の在留が可能です(受入れ開始時は3年まで)。
なお、技能実習2号修了者は、特定技能へ移行することができます。
特定技能制度ができる以前は、技能実習を終えた実習生は帰国するしかありませんでしたが、技能実習から特定技能への移行が可能となったことで、実習生は日本での就労を継続できる道が開かれました。
受入れ方法と人数制限の違い
特定技能と技能実習では、受入れ方法と上限人数にも大きな違いがあります。
特定技能の受入れ方法と人数
特定技能制度は、労働力不足を補うことを目的としているため、原則として企業ごとの受入れ人数に制限はありません。ただし、建設分野では企業単位、介護分野では事業所単位で人数の上限が定められています。
●建設分野
1号特定技能外国人の数が、受入機関の常勤の職員(外国人技能実習生、1号特定技能外国人を除く)の総数を超えないこと
●介護分野
事業所で受け入れることができる1号特定技能外国人は、事業所単位で、日本人等の常勤介護職員の総数を上限とすること
特定技能人材の採用は、企業が自ら行うことも、紹介会社を利用することも可能です。
企業と特定技能外国人は雇用関係にあり、基本的にこの二者間で手続きが進みます。ただし、生活支援などを行う「登録支援機関」がサポートすることが一般的あります。
技能実習の受入れ方法と人数
技能実習制度は、技能移転を目的としているため、企業規模に応じて受入れ人数が制限されています。これは、実習生一人ひとりに適切な指導を行うためです。
例えば、常勤職員数が30人以下の企業は3人まで、31人~40人の企業は4人までといった制限があります。
技能実習生の受入れは、海外の送り出し機関と提携する監理団体を通して行います。企業単独で採用することはできません。手続きには、監理団体、技能実習機構、送り出し機関など、複数の関係機関が関わります。
転職可否の違い
制度を選ぶにあたり、せっかく手間とお金をかけて採用した外国人材が、受入れ後、すぐに転職してしまうかもしれないというリスクも考えておかなければなりません。
それぞれの制度の転職可否について知っていきましょう。
特定技能の転職可否
特定技能は就労を目的とした在留資格であるため、日本人と同様に転職が可能です。
ただし、試験に合格している同じ職種内であること、転職先が求める技能レベルを満たしているかどうかなど、一定の条件をクリアする必要があります。
技能実習の転職可否
技能実習は技能習得を目的としており、就労を目的としていません。そのため、「転職」という概念自体が存在しません。
原則として、実習期間中は当初の受入れ企業で実習を行う必要があります。ただし、例外的に転職(転籍)が認められるケースもあります。
具体的には、実習実施者(受入れ企業)側の都合によって実習の継続が困難となった場合や、技能実習2号から3号へ移行するタイミングなどです。これらの場合でも、所定の手続きが必要となります。
育成就労制度へ移行後は、3号へ移行する前であっても、1年以上の勤務などの要件を満たすことで転職が可能になる見込みです。
家族帯同可否の違い
外国人労働者にとって、家族の帯同は日本で長く安定して働く上で重要な要素です。
家族と共に生活できるかどうかは、就労継続の意思決定に大きく影響します。
特定技能の家族帯同の可否
特定技能1号は、技能実習と同様に帰国を前提とした在留資格であるため家族の帯同は認められていません。
一方、特定技能2号は、更新による長期就労が可能な在留資格です。そのため、配偶者と子供に限り、家族の帯同が認められています。
ただし、これまで特定技能2号の対象分野が限られていたこともあり、実際に家族を帯同しているケースは多くありませんでした。
今後、対象分野の拡大に伴い、家族帯同を選択する人が増える可能性があります。
技能実習の家族帯同の可否
技能実習制度は、あくまでも技能習得を目的とした制度であり、将来的には母国に帰国し、習得した技能を活かすことが前提となっています。そのため、家族の帯同は認められていません。
特定技能のメリットとデメリット
特定技能制度の活用にはメリットとデメリットがあります。
即戦力としての活用可能性や長期的な雇用の可能性がある一方で、高い要件による人材確保は比較的困難となります。
即戦力としての活躍
特定技能制度の大きなメリットは、即戦力として外国人材を活用できる点です。
前述までの通り、特定技能の対象者は、分野別の技能試験に合格し一定の日本語能力を有する人材です。
これにより、すでに一定の技能・日本語能力を持った人材を確保でき、入国後すぐに会社の戦力として活躍してもらうことが可能となります。
技能実習制度のように一から教育する必要がないため、人材育成にかかる時間とコストを削減できるでしょう。
長期的な雇用
特定技能の1号では、在留期間が通算5年までと定められていますが、2号では更新回数の制限がありません。
つまり、2号での受入れであれば長期的な雇用が可能となるのです。
特定技能の人材を単なる一時的な労働力ではなく、会社の発展を支える重要な戦力として育成していくことも可能でしょう。
長期的な視点に立った人材活用を実現できる点は、特定技能制度の大きな魅力と言えます。
高い要件による人材確保の困難さ
一方で、特定技能制度の活用には、人材確保の難しさというデメリットもあります。
分野別の技能試験に合格し、日本語能力試験N4以上の語学力を有するという高い要件をクリアした人材のみが対象となるためです。
また、競合他社からも多くの引き合いがあるため、自社に魅力を感じてもらうためのお給料も技能実習生と比較して高額となります。
このハードルの高さゆえに、特定技能の候補者層は限定的となるため、求める人材像に合致する外国人材を見つけ出すのは思いのほか簡単ではありません。
技能実習のメリットとデメリット
次に、技能実習制度のメリットとデメリットについて詳しく見ていきましょう。
幅広い候補者層からの選考
技能実習制度のメリットは、幅広い候補者層から人材を選考できる点です。
前述の通り、特定技能制度では候補者層が限定的になりがちですが、技能実習制度では、基本的なコミュニケーション能力と意欲があれば、多くの人材から選考することができます。
これにより、企業側としては、自社の要望に合った外国人材を見つけやすくなります。製造業や建設業、農業などの基礎的な技能職種を中心とした90職種が対象となっているため、幅広い分野で人材確保が可能です。
ただし、候補者層が広い分、適切な人材を見極める選考プロセス(面接など)がより重要になるでしょう。
教育にかかる工数と時間
技能実習制度のデメリットとして挙げられるのが、基礎からの教育が必要であり技能習得に時間を要する点です。
未経験者の受入れが可能である一方で、即戦力として活用することは難しく、一定の教育期間が必要となります。
技能実習制度では、1号から3号までの段階的な期間設定があり、最長で5年間の実習期間が設けられています。
この期間を通じて、外国人材は段階的に技能を習得していくことになりますが、企業側としては、その間の教育コストや生産性の低下などを考慮する必要があります。
特に、早期の戦力化を目指す場合や、高度な技能を持つ人材を求める場合には、技能実習制度よりも特定技能制度の方が適している場合もあるでしょう。
技能実習から特定技能への移行
技能実習を修了した外国人材が、さらなるキャリアアップを目指す際に有効な選択肢が特定技能への移行です。
ここでは、技能実習から特定技能への移行について詳しく見ていきましょう。
移行要件と試験免除
技能実習生が特定技能へ移行する際には、一定の要件を満たす必要があります。
最も重要な要件は、技能実習2号を修了し、2年10ヶ月以上の実習期間を満了していることです。
この要件を満たせば、特定技能1号の技能試験が免除されます。
また、日本語能力についても、技能実習2号修了時のN3相当以上の能力があれば、特定技能1号の日本語能力試験N4の合格条件が免除されます。
これらの試験免除措置により、技能実習から特定技能への移行がスムーズに行えるようになっています。
実習で培った技能の活用
技能実習で培った技能や経験は、特定技能での就労で、そのまま活かすことができます。
特定技能1号では、技能実習で従事していた職種と同じ分野で就労することが可能です。そのため、実習で身につけた技能をさらに発展させ、即戦力として活躍することが期待されています。
技能実習から特定技能への移行は、外国人材のキャリア形成においても重要な意味を持っているのです。
事例紹介:技能実習から特定技能へのキャリアアップ
実際に、技能実習から特定技能へ移行し、活躍している外国人材の事例を見てみましょう。
ベトナム出身のAさんは、建設業(内装業)の技能実習生として来日し、5年間の実習期間を修了しました。
その後、技能実習で配属されていた企業で特定技能1号へ移行し、実習で培った技能を活かして、即戦力として内装工事の現場で働いています。
Aさんは、「技能実習で学んだことが特定技能での仕事に直結しているので、スムーズに仕事に取り組めています。将来的には、特定技能2号を目指して、さらなるスキルアップを図りたいです」と話しています。
このように、技能実習から特定技能への移行は、受入れ企業の人材不足を解決すると同時に、外国人材のキャリアアップに大きく貢献しているのです。
まとめ
特定技能は即戦力としての活用を、技能実習は基礎から育成する人材確保を目的としています。
企業の外国人材活用の目的や体制に合わせて、自社の状況や職種に合った適切な制度を選択することが重要でしょう。
即戦力が必要な場合や長期的な専門人材育成を目指すなら特定技能、国際貢献を目的として多くの人材を受け入れながら基礎から人材を育成できる場合は技能実習が適していると言えます。
また、技能実習から特定技能へ移行することで、技能実習のデメリットであった、受入れ人数や期間、単純労働の禁止などの問題をクリアすることも可能です。
自社の業界・職種・人員計画などに合わせて、戦略的に外国人の受入れ制度を活用を検討していきましょう。
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