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外国人労働者の脱退一時金とは?支給額、受給資格、最新情報【2024年版】

外国人労働者であっても、20歳以上・60歳未満であれば、国民年金・厚生年金に加入し、国民年金保険料を納めることが義務付けられています。

そこで、外国人の方が日本で働いた後、母国へ帰国する際に直面する大きな課題の一つが、支払った年金保険料の取り扱いです。

この記事では、外国人労働者が日本国内で支払った年金保険料の一部を払い戻すことができる「脱退一時金制度」について、支給額や受給資格、最新の制度改正情報を交えて詳しく解説します。

脱退一時金の支給を受けるためには、一定の条件を満たす必要があるため、老齢年金の受給資格期間の短縮や年金通算協定締結国との関係など、制度を取り巻く状況も理解しておくことが重要です。

この記事を読むことで、外国人労働者と雇用主の双方が知っておくべき、脱退一時金制度の重要ポイントを押さえることができるでしょう。

この記事の監修
(株)アルフォース・ワン 代表取締役
山根 謙生(やまね けんしょう)
日本人、外国人含め「300社・5,000件」以上の採用支援実績。自社でも監理団体(兼 登録支援機関)に所属し、技能実習生・特定技能外国人の採用に取り組んでいる。外国人雇用労務士・外国人雇用管理主任者資格保有。(一社)外国人雇用協議会所属。

外国人労働者に脱退一時金を説明する理由

外国人労働者の中には、日本の制度への理解不足から、社会保険への加入をためらう人がいます。

給与の減額を懸念するケースもありますが、大きな理由の一つとして、将来帰国する場合に、支払った年金保険料が無駄になるのではないかという不安があるからです。

そこで、企業は外国人労働者に対して「脱退一時金」制度について丁寧に説明することが重要です。

この制度は、一定の条件を満たせば、帰国時に支払済みの年金保険料の一部が払い戻されるというものです。脱退一時金について正確に理解することで、外国人労働者の社会保険加入への抵抗感を軽減でき、入社前後でのトラブルを防止することにもつながります。

説明の際には、具体的な支給額の目安を示すために、モデルケースを用いて概算額を提示すると、より理解を深めてもらいやすいでしょう。

外国人労働者の脱退一時金制度とは

脱退一時金制度とは、日本国籍を有していない外国人労働者が、老齢年金の受給資格期間である10年を満たさずに帰国する時に、納付した年金保険料の一部を返金する制度のことを指します。

老齢年金を受け取る前に帰国すると、支払った年金保険料が無駄になってしまう可能性があります。これを避けるため、一定の条件を満たす場合は、支払済みの保険料の一部が脱退一時金として払い戻されるという仕組みです。

国籍に関係なく、20歳以上60歳未満の国民年金・厚生年金被保険者が対象となりますが、医療滞在ビザや長期観光ビザ等で滞在している方は対象外となっています。

脱退一時金制度の意義と目的

脱退一時金は、日本で短期就労をする外国人労働者に対する配慮として設けられた制度です。

日本で働いた期間に応じて年金保険料の一部を返金することで、外国人労働者の負担を軽減し、日本での就労をサポートすることを目的としています。

以前は支給対象となる期間の上限が3年でしたが、2021年4月の法改正により、この上限が5年に引き上げられました

つまり、改正前は3年を超える納付期間があっても最大3年分までしか支給対象となりませんでしたが、改正後は最大5年分までが対象となったということです。

この改正は、最長5年の在留期間を持つ特定技能1号の創設や、短期滞在の外国人の状況変化(3年~5年の滞在者が16%増加)などを背景に実施されています。

脱退一時金の支給要件

脱退一時金を請求するには、いくつかの支給要件と請求条件を満たす必要があります。

国民年金の場合の支給要件

国民年金の脱退一時金を請求するには、以下の条件を全て満たす必要があります。

  • 合計6ヶ月以上の保険料納付済期間等(※)の月数がある
    ※保険料が未納となっている期間は除外
  • 日本国籍を有していないこと
  • 老齢基礎年金の受給資格期間(10年間)を満たしていないこと
  • 公的年金制度(国民年金・厚生年金)の被保険者ではないこと
  • 障害基礎年金などの年金を受ける権利を有したことがない
  • 日本国内に住所を有していないこと
  • 公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない
    (資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)

■保険料納付済期間等の月数の合計とは

以下の1~4で計算した、第1号被保険者(任意加入被保険者含む)であった期間の合算月数のことを言います。

  1. 保険料納付済期間の月数
  2. 保険料4分の1免除期間の月数×4分の3
  3. 保険料半額免除期間の月数×2分の1
  4. 保険料4分の3免除期間の月数×4分の1

厚生年金保険の場合の支給要件

厚生年金保険の脱退一時金を請求する場合は、以下の条件を全て満たす必要があります。

国民年金加入時との違いは、国民年金は実際に保険料を支払った期間が要件となる一方、厚生年金は加入期間が要件となる点です。厚生年金の場合、保険料が免除されている期間も加入期間としてカウントされます。

  • 6ヶ月以上の厚生年金保険(共済組合等を含む)の加入期間がある
  • 日本国籍を有していないこと
  • 老齢基礎年金の受給資格期間(10年間)を満たしていないこと
  • 公的年金制度(国民年金・厚生年金)の被保険者ではないこと
  • 障害基礎年金などの年金を受ける権利を有したことがない
  • 日本国内に住所を有していないこと
  • 公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない
    (資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)

脱退一時金の支給額の計算方法

ここでは、国民年金と厚生年金保険それぞれの脱退一時金の計算方法について説明します。

厚生年金保険の脱退一時金の金額は、平均標準報酬額、支給率、加入期間に基づく複雑な計算式によって決定されます。国民年金と比べると、計算方法が少し異なるので注意が必要です。

国民年金の脱退一時金の計算方法

国民年金の脱退一時金の支給額は、最後に保険料を納付した月の属する年度と、納付済みの月数に基づいて計算されます。

具体的には、以下の式で求められます。

(最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額)×(2分の1)×(支給額計算に用いる数)

脱退一時金の支給額は、年金保険料の納付期間に応じて算出されます。

2024年4月から2025年3月の間に最後に保険料を納付した場合の支給額の計算方法を、以下で具体的に説明します。

▼最後に保険料を納付した月が2024年(令和6年)4月から2025年(令和7年)3月の場合▼

保険料納付済期間等の月数(※) 支給額計算に用いる数 支給額(令和6年度)
6月以上12月未満 6 50,940円
12月以上18月未満 12 101,880円
18月以上24月未満 18 152,820円
24月以上30月未満 24 203,760円
30月以上36月未満 30 254,700円
36月以上42月未満 36 305,640円
42月以上48月未満 42 356,580円
48月以上54月未満 48 407,520円
54月以上60月未満 54 458,460円
60月以上 60 509,400円

※保険料の一部免除を受けていた期間については、免除の種類に応じて算入される期間が異なります。また、2021年3月以前に最後に保険料を納付した場合は、支給額の計算において納付期間の上限が36ヶ月(3年)となります。

厚生年金保険の脱退一時金の計算方法

厚生年金保険の脱退一時金は、以下の計算式で算出されます。

(被保険者であった期間の平均標準報酬額) × (支給率)

被保険者であった期間の平均標準報酬額: 以下のAとBを合算し、全体の被保険者期間の月数で割って算出します。

A:2003年4月より前の被保険者期間の標準報酬月額に1.3を乗じた額
B:2003年4月以後の被保険者期間の標準報酬月額と標準賞与額を合算した額

支給率: 最終月(資格喪失日の属する月の前月)の属する年の前年10月の保険料率(最終月が1月から8月の場合は、前々年10月の保険料率)に1/2を乗じた率に、被保険者期間に応じた係数を乗じて算出します。

計算結果に小数点以下第1位未満の端数が生じる場合は、四捨五入します。

▼最終月が2021年(令和3年)4月以降の場合▼

被保険者であった期間 支給率計算に用いる数 支給率
6月以上12月未満 6 0.5
12月以上18月未満 12 1.1
18月以上24月未満 18 1.6
24月以上30月未満 24 2.2
30月以上36月未満 30 2.7
36月以上42月未満 36 3.3
42月以上48月未満 42 3.8
48月以上54月未満 48 4.4
54月以上60月未満 54 4.9
60月以上 60 5.5

なお、最終月が2021年(令和3年)3月以前の場合は、これまで通り36月(3年)を上限として支給額が計算されます。

支給額計算の具体例

ここでは、国民年金と厚生年金保険それぞれの脱退一時金の支給額計算の具体例を示します。

下記はあくまで計算例であり、実際の支給額は個々の状況によって異なります。また、厚生年金の計算では、保険料率は最新の値を使用してください。

それぞれの計算方法を理解し、外国人労働者へ分かりやすく説明することで、安心して日本で働ける環境づくりに貢献しましょう。

国民年金の脱退一時金の計算例

最後に保険料を納付した月:2023年9月
保険料納付済期間:36ヶ月
2023年の国民年金保険料:16,590円/月

  • 計算式
    (最後に保険料を納付した月の属する年度の月額保険料) × (1/2) × (支給額計算に用いる数)
  • 計算方法
    国民年金保険料16,590円 × (1/2) × 30 = 248,850円
    ※納付期間が36ヶ月のため「支給額計算に用いる数」は30よって、脱退一時金は248,850円となります。

厚生年金の脱退一時金の計算例

年収:320万円 (月給20万円×12ヶ月+賞与40万円×年2回)
加入期間:48ヶ月
厚生年金保険料率:18.3% (仮定)

  • 平均標準報酬額の算出

(標準報酬月額20万円 × 36ヶ月 + 標準賞与額40万円 × 6回) ÷ 36ヶ月
= 266,666円 (約26.7万円)

  • 支給率の算出

(18.3% × 1/2) × 36 = 3.3%
※36ヶ月なので、支給率計算に用いる数は36

  • 脱退一時金の算出

266,666円 × 3.3 =879,997円

よって、脱退一時金は約88万円となります。

脱退一時金制度の手続きと流れ

ここでは、脱退一時金制度の手続きと流れについて詳しく解説していきます。

請求手続きに必要な書類と情報

脱退一時金を請求するには、「脱退一時金請求書」と必要書類を提出する必要があります。これらの書類は、通常、請求者自身で準備します。

脱退一時金請求書

請求書は、日本年金機構のウェブサイトにて計14言語の多言語対応のものが用意されています。

英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、インドネシア語、フィリピノ(タガログ)語、タイ語、ベトナム語、ミャンマー語、カンボジア語、ロシア語、ネパール語、モンゴル語

日本年金機構のウェブサイトの「脱退一時金に関する手続きをおこなうとき」のページからダウンロード、ねんきんダイヤルでの電話請求、最寄りの年金事務所、年金相談センター、市区町村役場、自治体の国際化協会などで入手することができます。

必要書類

本人確認書類 パスポート(旅券)の写し(氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページ)
出国確認書類 住民票の除票の写し、またはパスポートの出国日が確認できるページの写しなど。帰国前に市区町村に転出届を提出済みの場合は不要です。ただし、日本年金機構が氏名をアルファベットで管理するようになった2012年7月より前に被保険者だった場合などは、提出が必要となる場合があります。
受取口座確認書類 受取先の金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号、請求者本人の口座名義であることを確認できる書類(金融機関発行の証明書、または請求書の「銀行の証明」欄に銀行の証明印でも可)。日本国内の金融機関で受け取る場合は、口座名義がカタカナで登録されている必要があります。ゆうちょ銀行や一部のインターネット専業銀行では受け取れませんので注意が必要です。
基礎年金番号確認書類 基礎年金番号通知書、年金手帳など、基礎年金番号が確認できる書類。

代理人による請求の場合

代理人が請求手続きを行う場合は、上記の書類に加えて委任状が必要です。

企業が代理人となる場合、退職前にこれらの書類を準備しておくと手続きがスムーズに進みます。

退職後に書類を集めようとすると、本人との連絡が困難になり、手続きが遅延する可能性があるため注意が必要です。

帰国前の国内からの請求方法

脱退一時金を日本国内から請求する場合、出国予定日の1ヶ月前から請求が可能です。

請求方法は、出国後の請求と同様に、必要書類を揃えて日本年金機構に郵送または持参します。

ただし、国内からの請求の場合、出国日が確定していることを証明する書類、例えば航空券の予約確認書などを添付する必要があります。

国内からの請求のメリットは、出国後に現地から請求する手間が省けることです。

ただし、出国予定日が変更になった場合は、速やかに日本年金機構に連絡し、請求書の内容を変更する必要があるので注意しましょう。

請求から受給までのプロセスと期間

脱退一時金の請求から受給までのプロセスは、以下のようになります。

  1. 必要書類を揃えて、日本年金機構に請求書を提出
  2. 日本年金機構で請求内容を審査
  3. 審査結果を請求者に通知
  4. 受給が決定した場合、指定の金融機関口座に脱退一時金を振り込み

請求から受給までの期間は、請求書が日本年金機構に到着してから約3ヶ月~6ヶ月ほどかかります。

この期間は、請求内容の審査や事務処理に要する時間です。

ただし、請求内容に不備があった場合や、追加の書類提出が必要な場合は、さらに時間がかかることがあります。

スムーズに手続きを進めるためにも、請求書の記入は慎重に行い、必要書類は漏れなく提出するようにしましょう。

脱退一時金制度の重要な関連情報

脱退一時金制度は、外国人労働者の年金制度を取り巻く重要な要素と深く関わっています。

ここでは、脱退一時金制度に関連する重要な事項について詳しく見ていきましょう。

年金通算協定締結国との関係

脱退一時金だけでなく「社会保障協定」についても理解しておくことが重要です。

社会保障協定とは、日本と協定締結国との間で、社会保障の二重加入を防ぎ、年金加入期間を通算できるようにする制度です。

協定により、日本で納付した年金保険料は母国での納付と同様に扱われます

2024年4月現在、日本は23ヵ国と社会保障協定を締結しています。

協定の内容は国によって異なりますが、イギリス・韓国・中国・イタリアの4か国を除き、年金加入期間の通算が可能です。

協定締結国の外国人労働者の場合、以下の2つの選択肢があります。

  1. 帰国後、日本・母国両方の加入期間を通算して老齢年金を受給する
  2. 日本出国後すぐに脱退一時金を受給する

ここで注意すべき点があります。 脱退一時金を受け取った場合、その支給額計算の基礎となった期間(日本で働いた期間)は、母国での年金加入期間として通算されなくなります

つまり、脱退一時金を受け取るか、将来の老齢年金の受給資格取得のために期間を通算するか、どちらか一方しか選べません。

企業は、協定締結国の出身者には、それぞれのメリット・デメリットを丁寧に説明し、どちらの選択肢が適切かを十分に検討するようアドバイスすることが重要です。

社会保障協定締結国(2024年4月1日時点)

ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア

※イギリス・韓国・中国・イタリアとの協定は「保険料二重負担防止」のみ

再入国許可と脱退一時金請求の関係

再入国許可と脱退一時金請求の関係は、外国人労働者が日本を一時的に離れる場合に特に重要となります。

再入国許可を取得して日本を出国する場合、外国人労働者は在留資格を維持したまま一時的に日本を離れることができます

この場合、出国時に脱退一時金を請求することはできません。

なぜなら、脱退一時金の請求は、在留資格を喪失し、日本に戻る予定がない場合にのみ可能だからです。

外国人労働者を雇用する企業は、従業員が一時帰国する場合の再入国許可の取得を支援するとともに、脱退一時金請求の条件についても正しい情報を提供することが重要です。

再入国許可と脱退一時金請求の関係を理解することで、外国人労働者は適切なタイミングで脱退一時金を請求することができるでしょう。

まとめ

脱退一時金制度は、日本で働いた外国人労働者にとって、納付した年金保険料の一部を払い戻すことができる重要な制度です。

2021年4月の制度改正により、支給対象期間の上限が3年から5年に延長され、特定技能1号を含む、より多くの外国人労働者が恩恵を受けられるようになりました。

脱退一時金を受け取るには、加入期間や国籍など一定の条件を満たす必要があり、支給額の計算方法は、国民年金と厚生年金で異なり、それぞれの計算式に基づいて算出されます。

脱退一時金の請求手続きでは、脱退一時金請求書を含む必要書類を揃えて日本年金機構に提出し、実際に支給されるまでには通常3~6ヶ月程度かかります(帰国前に国内から請求することも可能)。

また、脱退一時金制度の活用にあたっては、老齢年金の受給資格期間への影響や、年金通算協定を締結している国との関係など、関連する制度についても理解しておくことが大切です。

受入れ企業側は、外国人労働者に対して、誤解や認識の齟齬を生まないよう丁寧に説明し、スムーズな手続きをサポートすることで、退職後も良い関係を築きながら、技能実習修了後の特定技能としての再入社などの、良い流れを構築することができるでしょう。

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