人手不足の深刻化を背景に、特定技能制度を活用して外国人材の受け入れを進める企業が増えています。しかし、受け入れには企業と外国人本人の双方が満たさなければならない厳格な条件が定められています。
この記事では、特定技能1号・2号の制度概要をはじめ、外国人本人と企業側に求められる受け入れの条件、企業側の支援義務やその内容についてわかりやすく解説します。
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きさらぎ行政書士事務所
行政書士 安藤 祐樹
きさらぎ行政書士事務所代表。20代の頃に海外で複数の国を転々としながら農業や観光業などに従事し、多くの外国人と交流する。その経験を通じて、帰国後は日本で生活する外国人の異国での挑戦をサポートしたいと思い、行政書士の道を選ぶ。現在は入管業務を専門分野として活動中。愛知県行政書士会所属(登録番号22200630号)
特定技能制度とは
特定技能制度は、日本社会が直面する深刻な人手不足に対応するために創設された制度です。2019年4月の出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)の改正により新設されました。
この制度では、IT化や機械化などの生産性向上や国内人材確保のための取組を行っても、なお人手不足が深刻化する特定の産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人の就労を認めています。
特定技能制度は、産業上の人材確保を目的としている点で、国際貢献を主眼とする技能実習制度とは制度趣旨が異なります。
特定技能1号と2号について
特定技能には1号と2号の2種類があり、それぞれ受け入れ対象や在留期間などに違いがあります。
特定技能1号は、相当程度の知識または経験を必要とする業務に従事する外国人を対象としています。一度に付与される在留期間は最長1年で、通算の在留期間は5年が上限となります。原則として家族の帯同は認められていません。
特定技能2号は、熟練した技能を要する業務に従事する外国人を対象としています。一度に付与される在留期間は最長3年で、在留期間の更新に上限がなく、長期的に日本での就労が可能です。また、配偶者および子の帯同が認められています。
受け入れ対象の産業分野
特定技能制度では、受け入れが認められる産業分野があらかじめ定められており、分野ごとに制度運用の方針や試験制度が整備されています。
特定技能1号は、相当程度の知識または経験を必要とする業務に従事する外国人を対象としており、2025年4月時点で16分野が受け入れ対象となっています。
特定技能2号は、より熟練した技能を必要とする業務が対象で、現時点で11分野が受け入れ可能とされています。
以下は、出入国在留管理庁が公表している特定技能の受け入れ対象分野の一覧です。
在留資格の種類 | 受け入れ対象分野 |
特定技能1号(16分野) | 介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、自動車運送業、鉄道、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、林業、木材産業 |
特定技能2号(11分野) | ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業 |
特定技能受け入れの条件
特定技能制度を利用して外国人を受け入れるには、本人および受け入れ機関の双方が、入管法令により定められた基準を満たす必要があります。
特定技能1号と2号では、対象となる業務や技能水準などに違いがあり、求められる条件も異なります。
以下では、外国人本人、雇用契約、受け入れ機関それぞれの条件について、1号と2号に分けて詳しく解説します。
特定技能外国人(本人)の基準
特定技能の在留資格審査では、外国人本人の年齢や健康状態などに加え、技能水準や日本語能力なども審査対象となります。特定技能1号と2号それぞれの基準について具体的に解説します。
特定技能1号の基準
特定技能1号の在留資格を取得するには、外国人本人が入管法令で定められた基準に適合している必要があります。主な基準として、分野別に定められた技能試験に合格していることや、日本語能力試験N4相当以上(JLPT N4またはJFT-Basic)に合格していることなどが必要です。ただし、技能実習2号または3号を良好に修了している場合は試験が免除されます。
また、分野により追加の要件が設けられている場合があります。たとえば介護分野では介護日本語評価試験の合格が必要となり、自動車運送業分野のバス・タクシー運転者や、鉄道分野の運輸係員は日本語能力試験N3の合格が求められることとなります。
特定技能2号の基準
特定技能2号の主な要件は、対象分野別に定められた実務経験の期間を満たすことと、特定技能2号評価試験に合格することです。また、漁業など一部の分野においては、日本語能力試験N3の合格が求められます。
特定技能2号の場合は、技能実習の修了などによる試験免除制度はありません。
雇用契約に関する基準
特定技能制度を利用して外国人を受け入れるには、入管法令の基準を満たす雇用契約を締結することが必要です。
次項では、特定技能の雇用契約書や雇用条件書で明示する必要のある具体的な基準について解説します。
業務内容
特定技能制度においては、外国人が従事する業務が、入管法及び関係法令に定められた業務区分に該当していることが必要です。また、業務内容は、外国人本人が技能評価試験等で技能水準を証明した内容と一致していなければなりません。
所定労働時間
特定技能外国人の労働時間は、当該業務に通常従事する日本人と同等であることが求められており、著しく短い労働時間での雇用は適正とされません。
また、始業および終業の時刻、休憩時間、休日、時間外労働の有無など、労働時間に関する項目を雇用条件書に明示することが必要です。
これらの条件は、労働基準法をはじめとする労働関係法令に適合していなければならず、差別的取扱いは認められていません。
報酬・福利厚生
特定技能雇用契約では、報酬の額が、同種の業務に従事する日本人が受ける報酬と同等以上であることが必要とされています。
比較対象となる日本人が社内に存在しない場合は、賃金規程その他の客観的資料をもとに、職務内容が最も近い日本人と比較して判断されます。
また、教育訓練の機会や福利厚生施設の利用についても、日本人と同様に取り扱うこととされており、不合理な差別的取扱いは認められていません。
一時帰国のための有給休暇
特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合には、業務上やむを得ない事情があるときを除き、外国人が休暇を取得できるように配慮することが求められています。
この「休暇」には、年次有給休暇のほか、特別休暇(法定外休暇)やその他の有給・無給の休暇も含まれます。すでに年次有給休暇をすべて取得している場合であっても、受け入れ機関は一時帰国の必要性に応じて、可能な範囲での配慮を行うこととされています。
分野特有の基準
特定技能制度で外国人を受け入れる場合には、全ての分野で共通の基準に加え、分野ごとに定められた個別の基準にも適合している必要があります。
たとえば建設分野では、受け入れ機関が建設業法に基づく建設業許可を有していることや建設キャリアアップシステムに登録していること、受け入れ人数が常勤職員数を超えないことなどの追加要件が設定されています。
また、介護分野においては、事業所ごとの受け入れ人数の上限が設定されており、日本人等の常勤の介護職員の総数を超えないことが条件になっています。なお、日本人等には永住者や日本人の配偶者等、在留資格「介護」などで在留する外国人の常勤職員も含まれます。これらの分野特有の要件は、分野別運用方針で定められています。
その他の基準
特定技能制度では、外国人の健康状態および生活状況を定期的に把握するための体制を整え、必要に応じて適切な対応を行うことが求められています。
また、外国人本人が契約終了後に帰国する際の旅費を負担できない場合、受け入れ機関側が帰国費用を負担する措置を講じることが求められています。
受け入れ企業に関する基準
特定技能外国人を受け入れる企業は、特定技能所属機関として所定の基準に適合している必要があります。以下に、特定技能所属機関に課される具体的な基準について詳しく解説します。
労働関係法令などの遵守
特定技能所属機関は、労働関係法令、社会保険関係法令および租税関係法令を適切に遵守していることが必要です。
これらの法令に違反している場合には、特定技能外国人の受け入れが認められないことがあります。具体的には、所定の保険制度への未加入や賃金未払い、税務上の義務違反などが確認された場合、所属機関としての信頼性が欠けると判断される可能性があります。
そのため、受け入れ機関は日常的に法令遵守の体制を整えておくことが求められています。
非自発的離職者・失踪者について
特定技能所属機関としての適格性を判断するにあたっては、過去1年以内に非自発的離職者を発生させていないことが要件となっています。
非自発的離職者とは、本人の責めによらない事由により雇用契約が終了した外国人であり、企業側の都合による解雇や労働環境の不備による離職などが該当します。
また、企業側の責めに帰すべき事由によって行方不明者(いわゆる失踪者)が発生している場合も、受け入れが停止される理由となります。
欠格事由に該当しないこと
特定技能外国人を受け入れるにあたっては、受け入れ機関が法令で定められた欠格事由に該当していないことが求められています。
具体的には、受け入れ機関やその役員が過去5年以内に禁錮以上の刑に処せられた場合や、入管法令、労働関係法令、社会保険関係法令などに違反して罰金以上の刑に処せられた場合は、欠格事由に該当します。
また、虚偽の申請、名義貸し、不当な手数料徴収、労働者の人権侵害など、制度の趣旨に反する不正行為が確認された場合は、たとえ罰金などの刑に処せられていなくても欠格事由に該当すると判断されることがあります。
各種帳簿書類を備え付けること
特定技能所属機関は、受け入れている特定技能外国人に関する帳簿を備え付けておくことが求められています。
帳簿には、氏名、国籍、在留資格および在留期間、従事する業務の内容、就業場所、雇用開始日、報酬額などの事項を記載する必要があります。
これらの帳簿は、特定技能外国人の活動状況を正確に把握し、制度の適正な運用を確保するために必要なものとされています。所属機関は、帳簿の整備・保存を行い、入管庁からの求めに応じて提出できるよう管理することが求められます。
保証金の徴収・違約金契約の禁止
特定技能所属機関は、特定技能外国人またはその親族等が保証金を徴収されていること、財産を管理されていること、または違約金に関する契約を締結させられていることを認識している場合には、その外国人との間で特定技能雇用契約を締結してはならないとされています。
これらの行為は、外国人の自由な意思を不当に制限するものであり、制度の趣旨に反するものとされています。受け入れに際しては、こうした状況が存在しないことを確認する責任が所属機関にあり、確認が不十分なまま契約を締結した場合には、適格性が問われる可能性があります。
所属機関は、適正な雇用関係を確保するため、契約前の段階から、問題が発生していないか十分に確認し、法令に則った対応を行う必要があります。
その他の基準
特定技能所属機関は、特定技能外国人の適正な受け入れを確保するため、その他にも複数の基準を満たす必要があります。
報酬の支払いは、通帳や振込記録等により確認可能な方法で行わなければならず、証明困難な手段での支払いは適切とされていません。
また、継続的に安定した雇用を維持できる状況にあることや、労働者災害補償保険法に基づく保険関係の成立の届出を適切に履行していることが求められます。
さらに、地方公共団体から共生社会の実現のために実施される施策に対し協力の要請があった場合は、その趣旨を踏まえ、協力することが求められます。
1号特定技能外国人に対する支援の義務
特定技能1号の外国人を受け入れる場合、受け入れ機関には、入管法に基づく支援の実施が義務付けられています。
この支援は、法令で定められた10項目の義務的支援と、任意で実施することができる任意的支援に分類されます。
受け入れ機関が自ら支援を適正に実施する体制を有していない場合には、入管庁の登録を受けた登録支援機関に支援の全部または一部を委託することができます。なお、この支援の義務は特定技能1号に限られ、特定技能2号の外国人には支援の実施義務は課されていません。
義務的支援10項目の内容
特定技能1号の外国人を受け入れるにあたり、受け入れ機関または登録支援機関は、入管法令上定められた10項目の義務的支援を適切に実施する必要があります。
義務的支援10項目は、以下の通りです。
特定技能1号外国人に対する義務的支援 |
①事前ガイダンスの実施 ②入国・帰国時の送迎 ③住居の確保や生活に必要な契約支援 ④生活オリエンテーションの実施 ⑤公的手続等への同行 ⑥日本語学習の機会の提供 ⑦相談・苦情への対応 ⑧日本人との交流促進支援 ⑨転職時の支援(人員整理等の場合) ⑩定期的な面談と行政機関への報告 |
任意的支援とは
任意的支援とは、法令上実施が義務付けられていないものの、受け入れ機関または登録支援機関が自主的に行うことができる支援を指します。
これは、特定技能1号の外国人がより安定して日本での生活・就労を継続できるようにする目的で、任意に追加実施される支援措置です。
任意的支援は、制度上の義務ではありませんが、適切に実施されることで外国人の生活支援の充実が図られ、共生社会の形成にも資するものとされています。
まとめ
本記事では、特定技能制度(1号・2号)の基本概要から、受け入れの条件、雇用契約時の注意点、支援義務の具体的な内容などを解説しました。
特定技能外国人の受け入れを検討している企業や人事担当者は、法令で定められた各種要件を正しく理解し、自社が基準に適合しているかを慎重に確認することが重要です。受け入れ準備の段階で疑問点がある場合は、最新の行政資料を確認し、必要に応じて専門機関に相談するなどの対応を進めてください。
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