初めて技能実習生を受け入れるにあたって、最も気になるのは「毎月どの程度の給与を支払うことになるのか」という点です。制度の概要や手続きについての情報は多くありますが、実際の給与相場については業種や実習段階などによって異なるため、初めて受け入れを検討する企業にとって全体像を把握するのは容易ではありません。
本記事では、厚生労働省や出入国在留管理庁の公表資料をもとに、技能実習生の給与水準や業種別の相場などを整理して解説します。人件費の見通しを立て、適切な雇用計画を策定するための参考にしてください。
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きさらぎ行政書士事務所
行政書士 安藤 祐樹
きさらぎ行政書士事務所代表。20代の頃に海外で複数の国を転々としながら農業や観光業などに従事し、多くの外国人と交流する。その経験を通じて、帰国後は日本で生活する外国人の異国での挑戦をサポートしたいと思い、行政書士の道を選ぶ。現在は入管業務を専門分野として活動中。愛知県行政書士会所属(登録番号22200630号)
技能実習生の給与に関する基本ルール
技能実習制度では、実習生が日本人と同等以上の報酬を受け取ることが法律上の基本原則となっています。
技能実習法には、実習生を受け入れるための要件として、「同種の業務に従事する日本人が受ける報酬の額と同等額以上の報酬を支払わなければならない」と規定されています。
この規定に基づき、実務上は地域ごとの最低賃金額が報酬設定の基準とされることが一般的であり、企業は最低賃金法との整合性を確保する必要があります。
報酬額の提示については、入国前の段階で技能実習生に対して説明することが求められており、出入国在留管理庁の調査では約64%の実習生が来日前に説明を受けたと回答しています。
たとえ報酬額の提示を受けても、税や社会保険料など差し引かれる金額を把握しておらず、入国後に「期待していたよりも給料が少ない」と感じて、労働意欲が低下してしまうケースも見受けられます。
実習生を受け入れる企業側は賃金体系を明確にするとともに、控除額など日本の報酬支払いのルールを丁寧に説明することが重要です。
また、地域別最低賃金の改定に伴う賃金の見直しや、技能実習生の技能向上に応じた報酬額の調整についても計画的に実施することで、法令遵守と実習生のモチベーション維持の両立が図れます。適正な報酬管理は、実習制度の目的である技能移転の効果を高めることにもつながります。
最低賃金と割増賃金
技能実習生であっても、日本国内で労働する以上、最低賃金法や労働基準法の規定は等しく適用されます。
最低賃金法に基づき、実習生の時間あたりの賃金は地域ごとの最低賃金額を下回ってはなりません。
時間外や休日労働に対しては労働基準法に基づく割増賃金の支払いが必要であり、割増賃金の基礎となる賃金には皆勤手当などが含まれる一方で、通勤手当や家族手当など個人的な事情に基づいて支給される手当は除外される場合があります。
ただし、通勤手当や家族手当などあっても、定額が一律支給される場合などは割増賃金の算出から除外できないため注意が必要です。
実際に最低賃金を下回っていないか、割増賃金の算出が適正かを確認するには、手当の性質を踏まえた正確な賃金計算が求められます。
日本人と「同等以上の報酬」の判断基準とは
技能実習制度では、技能実習生の報酬が「同種の業務に従事する日本人と同等以上」であることが必要とされており、その判断は職務内容と責任の程度に照らして行われます。
具体的には、従事する作業の種類、技能水準、業務量などに基づいて、日本人労働者と技能実習生の実務上の差異を検討することが求められます。
技能実習計画認定申請の際には、「日本人労働者と同等の報酬であること」の説明資料の提出が求められるため、就業規則や賃金規定等で客観的に立証しやすい状態を整備しておくことが重要です。
また実習の定期監査や実地検査時に賃金台帳などにより適切に給与が支払われているか確認されることとなるため、入国時点だけではなく技能実習が継続する期間内すべてにおいて違反のない状態を維持しなければなりません。
賞与の支払いについて
賞与(ボーナス)は、法律上必ず支給しなければならないものではありませんが、技能実習生に対しても日本人従業員と同様の社内基準を適用することが求められます。
通常、賞与が支給される職種や雇用形態にある日本人と同等の業務内容であれば、実習生にも同様の基準で判断する必要があり、不支給とする場合には合理的な理由が必要です。
雇用契約には賞与の有無が明記されるのが一般的であり、支給を記載しながら実際に支給しない場合は違反と見なされる可能性があります。
賞与の取り扱いにあたっては、雇用条件書や就業規則と照らし合わせながら、待遇に不公平が生じないよう運用体制を確保することが重要です。
業種・実習段階別の報酬相場
技能実習制度では、段階が進むにつれて技能の習熟度が高まるため、それに応じた報酬の引き上げが求められます。
また、制度上も実習の段階ごとの昇給率は、優良な実習実施者を認定する際の審査において、加点の対象となります。
次項では、技能実習1号・2号・3号の各実習段階における業種別の給与相場について解説します。
技能実習1号の報酬相場
令和5年度の技能実習1号の平均月額給与は全産業で191,309円となっており、業種ごとに差が見られます。
医療,福祉の業種では17万円台にとどまる一方、製造業では195,336円と比較的高く、職種の特性や地域の賃金水準が反映されています。
なお、令和3年度の1号技能実習生の現金給与額の全産業平均は175,421円で、令和4年度の平均は185,579円です。毎年5千円から1万円程度月額給与が上昇しています。
支給額に含まれる超過労働給与や通勤手当、精皆勤手当などの手当の構成は業種によって異なります。他の業種と比較して、製造業の平均給与が高い理由は超過労働給与の支給額が多いことが主な要因です。
製造業では生産ラインの維持や納期対応のため時間外労働が発生しやすい傾向があり、それに伴う割増賃金が総支給額を押し上げていると考えられます。
令和5年度 業種別第1号技能実習生の給与支給額及び控除額(単位:円) | ||||||||
業種別平均月額 | 全産業 | 農業,林業 | 漁業 | 建設業 | 製造業 | 医療,福祉 | サービス業 | その他 |
きまって支給する現金給与額 | 191,309 | 184,296 | 182,630 | 187,820 | 195,336 | 176,390 | 187,372 | 191,878 |
期末手当等 | 8,748 | 6,167 | 8,767 | 7,626 | 9,725 | 20,859 | 4,583 | 4,986 |
控除総額 | 47,490 | 33,800 | 27,350 | 49,355 | 48,761 | 45,057 | 48,230 | 47,441 |
※きまって支給する現金給与額には、「超過労働給与」「通勤手当」「精皆勤手当」「家族手当」が含まれます。
※控除総額には税・社会保険料のほか、食費・居住費の控除額が含まれます。
参照元:外国人技能実習機構|【公表用】令和5年度における技能実習の状況について(統計資料)
技能実習2号の報酬相場
令和5年度の技能実習2号における全産業の平均月額給与は201,829円で、技能実習1号と比較して約1万円高い水準です。
業種別では、製造業が最も高く203,602円、次いで建設業が203,025円、医療,福祉が202,756円となっており、専門性や労働負担の高い業種ほど給与が高くなる傾向があります。
一方で、農業・林業は190,945円、漁業は189,154円と、平均を下回る水準にとどまっています。
なお、令和3年度の2号技能実習生の現金給与額の全産業平均は192,976円で、令和4年度の平均は196,272円です。毎年3千円から5千円程度月額給与が上昇しています。
令和5年度 業種別第2号技能実習生の給与支給額及び控除額(単位:円) | ||||||||
業種別平均月額 | 全産業 | 農業,林業 | 漁業 | 建設業 | 製造業 | 医療,福祉 | サービス業 | その他 |
きまって支給する現金給与額 | 201,829 | 190,945 | 189,154 | 203,025 | 203,602 | 202,756 | 200,034 | 200,807 |
期末手当等 | 29,038 | 20,579 | 13,314 | 30,523 | 24,988 | 95,158 | 18,065 | 17,883 |
控除総額 | 49,695 | 35,156 | 30,073 | 53,218 | 50,752 | 50,284 | 52,232 | 50,998 |
※きまって支給する現金給与額には、「超過労働給与」「通勤手当」「精皆勤手当」「家族手当」が含まれます。
※控除総額には税・社会保険料のほか、食費・居住費の控除額が含まれます。
参照元:外国人技能実習機構|【公表用】令和5年度における技能実習の状況について(統計資料)
技能実習3号の報酬相場
技能実習3号の全産業における平均月額給与は229,829円で、技能実習1号や2号と比べて最も高い水準にあります。
技能実習3号に移行すると給与水準が大幅に上昇する理由としては、技能実習2号修了後は転職の制限が緩和される点や特定技能に無試験で移行する要件を満たすなど給与相場を押し上げる要因が複数存在することが挙げられます。
業種別では建設業が最も高く258,178円に達しており、医療・福祉は227,086円、サービス業が220,311円と続いています。
平均給与が最も低いのは、農業・林業の203,948円で、次いで漁業が212,712円と、他業種に比べてやや低い数字になっています。
なお、令和3年度の3号技能実習生の現金給与額の全産業平均は213,986円で、令和4年度の平均は222,179円です。毎年7千円から8千円程度月額給与が上昇しています。
令和5年度 業種別第3号技能実習生の給与支給額及び控除額(単位:円) | ||||||||
業種別平均月額 | 全産業 | 農業,林業 | 漁業 | 建設業 | 製造業 | 医療,福祉 | サービス業 | その他 |
きまって支給する現金給与額 | 229,829 | 203,948 | 212,712 | 258,178 | 220,191 | 227,086 | 220,311 | 219,046 |
期末手当等 | 46,623 | 34,036 | 17,248 | 57,511 | 42,942 | 175,359 | 35,525 | 33,079 |
控除総額 | 55,868 | 36,655 | 32,227 | 63,815 | 54,025 | 57,986 | 57,097 | 57,363 |
※きまって支給する現金給与額には、「超過労働給与」「通勤手当」「精皆勤手当」「家族手当」が含まれます。
※控除総額には税・社会保険料のほか、食費・居住費の控除額が含まれます。
参照元:外国人技能実習機構|【公表用】令和5年度における技能実習の状況について(統計資料)
報酬の支払い方法とその注意点
報酬の支払い方法は、現金、口座振込など任意に選択できますが、いずれの場合も記録が残る手段で行うことが原則とされています。
その理由は、賃金の支払い状況を適切に把握・証明できる体制が、労働関係法令の遵守において重要視されているためです。
現金払いを行う場合でも、受領書の作成や賃金台帳への記録など、客観的に確認可能な証拠を残す必要があります。
記録が不十分な場合には、支払いの事実が立証できず、監督指導の対象となる可能性があるため注意が必要です。
預貯金口座への振込みの場合
預貯金口座への振込みによって報酬を支払う場合は、振込みが適切に行われたことを証明する書類の保存が必要です。
具体的には、口座振込明細書や金融機関の取引明細書の写しなど、支払い日・金額・振込先名義などが明記された書類を保管することが求められます。
技能実習生を受け入れる企業は、報酬支払いに関する適正な記録を保管し、必要に応じて説明できる体制を整備しなくてはなりません。
預貯金口座への振込み以外の場合
預貯金口座への振込み以外の方法で報酬を支払う場合は、支払いの事実を客観的に確認できる書類の保存が必要です。
この場合、給与明細の写しや、受領したことを証明する報酬支払い証明書などを用意し、記録として適切に管理することが求められます。
証明書類には、支払日や金額、受領者の署名などが明記されていることが望ましく、不備があると支払いが認められないおそれがあります。
可能であれば、振込み記録が自動的に残る銀行振込みを用いる方が、実務上も確認が容易であり、リスクの低減につながります。
報酬トラブルを防ぐために企業がすべきこと
報酬に関するトラブルを未然に防ぐには、雇用契約書や雇用条件書、重要事項説明書などを技能実習機構が提供する多言語版で交付することが基本です。
加えて、就業規則や賃金規程など企業の社内規定についても、実習生が理解できる言語で丁寧に説明することが重要です。
説明手段としては、通訳の配置や動画による視覚的な説明を取り入れることで、内容の理解を促す工夫が効果的です。
実習開始前後に必要な情報を正確に伝える体制を整えることで、誤解や報酬トラブルの発生を防ぐことができます。
入国後講習期間中の待遇にも注意が必要
入国後講習は原則として労働には該当しませんが、講習期間中に食費や居住費などの自己負担が発生する場合は、必ず自己負担額以上の講習手当を支給する必要があります。
講習手当は、現金または現物で支給することとされており、受け入れ企業に配属されるまでの間、収入のない実習生が入国後講習に専念できるよう設けられている制度です。
技能実習計画の認定申請時には、講習手当の有無や金額、支給方法を重要事項説明書に記載し、実習生の署名を得ておく必要があるため、制度の趣旨を十分理解したうえで準備を行うことが求められます。
まとめ
技能実習生の報酬相場は、業種や地域、実習段階によって異なりますが、最低賃金以上での支払いが原則とされており、講習期間中の手当も含めて適切な金額設定が求められます。給与の支払い方法についても、振込みや手渡しにかかわらず証拠書類を確保し、支払い実績を明確にしておくことが重要です。
報酬に関する誤解やトラブルを防ぐには、金額の根拠を説明できる体制を整えたうえで、母国語での事前説明や書面による確認を徹底する必要があります。
実習生の不安を軽減し、信頼関係を築くことが、労働意欲の向上や円滑な受け入れ体制の維持にもつながります。また、実習段階の進行に応じた適切な昇給計画を事前に策定し、技能の習熟度に見合った報酬体系を整備することで、実習生のモチベーション維持と技能向上の促進が期待できます。
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