漁業分野では、地方の過疎化や少子高齢化に起因する慢性的な人手不足が深刻化しており、特定技能制度を活用した外国人材の受け入れが注目されています。ただし、制度の内容や必要な手続き、従事可能な業務には複雑なルールが多く、実際に採用を進めるには事前の十分な情報収集が不可欠です。
本記事では、特定技能「漁業」分野における外国人受け入れの要件や対応業務、必要な試験などについて、最新の制度情報をもとにわかりやすく解説します。

きさらぎ行政書士事務所
行政書士 安藤 祐樹
きさらぎ行政書士事務所代表。20代の頃に海外で複数の国を転々としながら農業や観光業などに従事し、多くの外国人と交流する。その経験を通じて、帰国後は日本で生活する外国人の異国での挑戦をサポートしたいと思い、行政書士の道を選ぶ。現在は入管業務を専門分野として活動中。愛知県行政書士会所属(登録番号22200630号)
漁業分野の人手不足の状況
漁業分野では、1961年に約70万人だった漁業就業者数が2022年には約12万人にまで減少し、就業者はおよそ6分の1まで落ち込んでいます。実際、令和4年度の有効求人倍率は漁船員で5.55倍、水産養殖作業員でも2.40倍と高い水準が続いており、現場では人手不足が慢性化しています。
こうした中、政府は令和10年度には約17万人の漁業従事者が必要であり、現状の推移が続くと約6万人の人材が足りなくなると推計しています。
そのため、農林水産省や厚生労働省などの関係機関では、人手不足解消のためにさまざまな対策を講じており、その一環として特定技能制度の活用などによる外国人材の受け入れ環境の整備が挙げられています。
参照:出入国在留管理庁|漁業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針
特定技能「漁業」の外国人就労者と今後の受け入れ見込み
令和6年12月末時点で、特定技能1号として漁業分野で在留している外国人は3,488人となっており、国別の内訳を見るとインドネシア出身者が2,888人と圧倒的に多く、次いでベトナムが449人、中国が133人と続いています。
一方、特定技能2号については制度開始から日が浅いこともあり、同じ時点で在留者はインドネシア出身の2人のみとなっています。
今後の受け入れ見込みについては、令和6年4月から5年間で最大1万7,000人の特定技能外国人を漁業分野で受け入れることを計画しており、現場の人材確保の重要な柱として期待されています。
特定技能「漁業」の制度概要
漁業分野で特定技能外国人を雇用するためには、入管法令に定められた制度の把握が不可欠です。ここからは、具体的な制度概要について詳しく見ていきましょう。
業務区分は「漁業」と「養殖業」の2種類
特定技能「漁業」では、業務区分が「漁業」と「養殖業」の二つに分かれており、それぞれ許可を得るために必要な条件や従事できる作業内容が異なっています。
主な業務内容として、「漁業」では漁具の製作・補修や水産動植物の探索、漁獲物の処理・保蔵などがあり、「養殖業」では養殖資材の管理、育成作業などが挙げられます。
いずれの業務区分でも、日本人従業員が通常従事する関連業務については、特定技能外国人も付随的に行うことが可能です。ただし、関連業務のみに専任して従事することは認められていませんので、雇用時には主たる業務とのバランスにも注意が必要です。
業務区分 | 漁業区分 | 養殖業区分 |
主な業務 | 漁具の製作・補修、水産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛生の確保等 | 養殖資材の製作・補修・管理、養殖水産動植物の育成管理、養殖水産動植物の収獲(収穫)・処理、安全衛生の確保等 |
関連業務 | 漁業に係る漁具の積込み・積下し、漁獲物の水揚げ、漁労機械の点検、船体の補修、自家原料を使用した製造・加工・出荷・販売等 | 養殖業に係る梱包・出荷、自家原料を使用した製造・加工・出荷・販売等 |
特定技能1号と2号の違い
特定技能「漁業」の1号と2号では、働き方や求められる役割に違いがあります。
特定技能1号は、現場の監督者からの指示を受けながら漁労や養殖の作業を行い、一定の自主性を持ちつつ日々の業務に従事します。
一方、特定技能2号は作業現場で他の作業員を指導し、操業や養殖管理の補佐として作業工程の管理に携わるなど、より高い技能と経験が必要とされるポジションです。
漁業分野における特定技能1号と2号の違いは以下の通りです。
在留資格 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
在留期間 | 通算5年が上限 | 上限年数の定めなし |
技能試験 | 1号漁業技能測定試験 (相当程度の技能) |
2号漁業技能測定試験 (熟練技能) |
日本語能力 | 日本語能力試験(JLPT)N4相当以上 | 日本語能力試験(JLPT)N3以上 |
実務経験 | 法律上の要件はなし | 2年以上の管理者経験が必要 |
家族帯同 | 原則不可 | 可能(配偶者及び子) |
永住許可の年数要件 (在留10年以上、そのうち就労5年以上) |
就労年数にカウントされない | 在留・就労年数どちらにもカウントされる |
支援義務 | 10項目の義務的支援あり | 支援義務なし |
漁業分野は派遣契約による就労も可能
漁業分野における特定技能の就労形態には特徴があり、直接雇用に加えて派遣契約による働き方も認められています。これは、漁業の現場が季節による繁忙期と閑散期の差が大きく、労働力の柔軟な確保が不可欠となる産業構造が背景にあります。
ただし、派遣形態で特定技能外国人を雇用する場合、派遣元となる事業者は厚生労働大臣の許可を受けた労働者派遣事業者でなければなりません。
許可を持たない事業者からの派遣受け入れは労働者派遣法や入管法違反で処罰対象となるおそれがあります。
また、漁業分野で特定技能外国人を派遣する事業者については、地方公共団体や漁業協同組合、漁業生産組合、あるいは漁業協同組合連合会など、漁業に関わる組織が事業運営することが求められています。
受入れ事業者が満たさなければならない要件
受け入れ事業者が特定技能外国人を雇用する際には、さまざまな法令上の条件を満たす必要があります。ここでは、主な要件について順番に解説しますので、各ポイントを押さえて受入れ準備を進めてください。
労働、社会保険、租税に関する法令を遵守していること
特定技能外国人を雇用する事業者は、労働関係法令、社会保険制度、税法といった各種法律をしっかりと守ることが求められます。
申請時に過去の違反歴がないことはもちろん、雇用を継続している間も一貫して法令遵守が求められる点に注意してください。
非自発的離職者・行方不明者を発生させていないこと
過去1年以内に本人の意思によらない離職者や外国人の行方不明者を発生させている場合、事業者は特定技能外国人の受け入れができなくなります。
非自発的離職者とは、人員整理などによる解雇のように、労働者の希望ではなく雇用主側の都合により雇用契約が終了したケースを指します。日本人を対象とした解雇もこの非自発的離職に該当するため、注意が必要です。
行方不明者については、特定技能外国人を含む外国人のみが対象で、日本人の行方不明は含まれません。このルールは雇用開始時だけでなく、受け入れ期間中も常に遵守しなければならない点に注意しましょう。
漁業特定技能協議会の構成員であること
漁業分野で特定技能外国人を受け入れるには、漁業特定技能協議会の構成員であることが必須とされています。
この協議会への加入は、受け入れ事業者が直接手続きを行うのではなく、構成員である漁業・養殖業の協会や組合などの団体(2号構成員)に加入することで、間接的に協議会の1号構成員として登録される仕組みです。
2号構成員となっている団体は複数あり、事業の内容に応じて適切な団体を選んで加入する必要があります。加入方法や提出書類は団体によって異なるため、詳細はそれぞれの団体に直接確認するようにしましょう。
協議会に対して必要な協力を行うこと
受け入れ事業者は、漁業特定技能協議会から求められる報告や資料の提出、現地調査などに対し、適切な協力を行う義務があります。
加えて、構成員となっている漁業や養殖業の協会や組合からの要請にも、同様に協力しなければなりません。
支援義務を履行すること
特定技能1号外国人を雇用する場合、事業者は必ず支援計画書を作成し、出入国在留管理庁に提出したうえで、その計画に従い支援を実施する必要があります。
法律上、必ず行わなければならない義務的支援の内容は以下の10項目です。
- 事前ガイダンス
- 出入国時の送迎
- 住居の確保や生活に必要な契約支援
- 生活オリエンテーション
- 各種公的手続きへの同行
- 日本語学習の機会提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 人員整理時の転職支援
- 定期面談や必要時の行政通報
これらの義務的支援は原則として受け入れ企業自身が行うものですが、登録支援機関に委託することも可能です。
なお、特定技能2号についてはこうした支援義務は課されていません。
登録支援機関に委託をする場合の注意点
特定技能1号外国人に対する支援業務を登録支援機関へ委託する場合、事業者は委託先の役割と責任について十分に理解しておくことが大切です。
登録支援機関自体は協議会への加入が必須とされていませんが、漁業特定技能協議会や関連団体から報告や資料の提出、調査対応などを求められた際、必要な協力を行う義務があります。
なお、漁業分野で登録支援機関となるための固有の要件は定められていませんが、運用要領では地域の漁業協同組合や漁協連合会が登録支援機関としての役割を担うことが望ましいとされています。
特定技能外国人が満たさなければならない要件
特定技能外国人として漁業分野で働くためには、いくつかの重要な基準をクリアする必要があります。ここからは、外国人側に課せられる要件について解説します。
漁業技能測定試験に合格していること
特定技能外国人として漁業分野で働くためには、原則として漁業技能測定試験に合格することが求められます。
試験は「漁業」と「養殖業」の区分に分かれており、試験内容が異なります。また、特定技能1号と2号それぞれの試験が用意されているため、受験する分野に応じた試験を選択する必要があります。
試験方式はCBT(コンピュータを利用した試験)が中心ですが、一部の国ではペーパーテスト形式が採用されている場合もあります。
日本国内の受験料は2025年7月時点で1号試験が8,000円、2号試験が15,000円と定められており、海外での受験については国ごとに異なる金額が設定されています。
日本語試験に合格していること
特定技能1号で漁業分野の仕事に従事するためには、日本語能力を証明する必要があります。
具体的には、日本語能力試験(JLPT)のN4以上に合格するか、もしくは国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)に合格することが求められます。
特定技能1号の日本語試験の概要 | ||
試験の種類 | 日本語能力試験(JLPT)N4 | 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic) |
開催場所 | 全国47都道府県 | 全国11都市13会場 |
試験日程 | 年2回(7月と12月) | 年6回(期間内の任意の日程で受験可) |
試験方式 | マークシート方式 | CBT方式 |
受験料 | 7,500円 | 1万円 |
なお、特定技能2号を目指す場合には、N3以上の合格が必要とされています。N3の試験の日程や開催場所、受験料などはN4と同様です。
2号の場合は実務経験が必要
特定技能2号として漁業分野で働くためには、2年以上の管理者経験が求められています。
漁業の場合、漁船法に基づき登録された漁船において、操業の指揮監督者を補佐しながら、作業員の指導や作業工程の管理を行った実務経験が必要です。
養殖業区分では、養殖の現場で、養殖を管理する立場の者を補助し、作業員の指導や作業全体を管理した2年以上の経験が要件とされています。
技能実習から特定技能に移行する場合の試験免除について
技能実習から特定技能1号へ在留資格を変更する際、一定の条件を満たすことで試験の一部または全部が免除される制度が設けられています。
技能実習修了者の試験免除のルールは以下の通りです。
業務区分 | 漁業 | 養殖業 |
1号技能測定試験と日本語試験の両方免除 | 「かつお一本釣り漁業、延縄漁業、いか釣り漁業、まき網漁業、ひき網漁業、さし網漁業、定置網漁業、かに・えびかご漁業、棒受網漁業」の技能実習2号を良好に修了 | 「ほたてがい・まがき養殖」の技能実習2号を良好に修了 |
日本語試験のみ免除 | 職種・作業問わず技能実習2号を良好に修了 | 職種・作業問わず技能実習2号を良好に修了 |
なお、特定技能2号については、すべての受験者が技能測定試験および日本語能力試験N3以上の合格を求められ、免除制度はありません。
特定技能「漁業」で外国人を採用する流れ
特定技能「漁業」で外国人材を受け入れる際は、採用から就労開始までに複数の手続きを順番に実施しなければなりません。
ここでは、「海外から直接受け入れる場合」と「日本在留外国人を採用する場合」に分けて採用の流れを解説します。
海外から直接受け入れる場合
海外から特定技能1号外国人を直接受け入れる際は、日本側と外国側それぞれで順に手続きを行う必要があるため、雇用主と外国人双方の連携が欠かせません。
基本的な受け入れの流れは以下の通りです。
1. 外国人が技能測定試験と日本語試験に合格する
2. 面接の実施
3. 雇用主が外国人に対して事前ガイダンスを行う
4. 雇用契約を締結する
5. 外国人が健康診断を受ける
6. 雇用主が外国人の代わりに在留資格認定証明書交付申請を行う
7. 外国人が在外公館(大使館など)で査証発給申請を行う
8. 外国人が日本の空港等で上陸申請を行う
9. 雇用主が空港等へ外国人を迎えに行く
10. 生活オリエンテーションなど実施した後に就労開始
日本国内在留者を採用する場合
日本国内に在留している外国人を採用する場合、「留学」や「技能実習」など、現に有している在留資格から「特定技能」への在留資格変更手続きが必要となります。
1. 外国人が技能測定試験と日本語試験に合格する
2. 面接の実施
3. 雇用主が外国人に対して事前ガイダンスを行う
4. 雇用契約を締結する
5. 外国人が健康診断を受ける
6. 外国人が在留資格変更許可申請を行う
7. 生活オリエンテーションなど実施した後に就労開始
まとめ
本記事では、特定技能「漁業」に関する制度の概要や受け入れ要件、試験の詳細、採用までの具体的な手続きなど、現場で押さえておくべき主要なポイントを解説しました。
特定技能2号の制度追加により、今後は漁業分野における外国人材の受け入れが一層進むことが予想されます。受け入れを検討している事業者の方は、制度を正しく理解したうえで、適切な雇用体制を整えることが重要です。不明点や懸念がある場合は、早めに専門機関へ相談し、計画的な採用準備を進めていきましょう。
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