外国人材の受け入れに関する育成就労制度と技能実習制度。
その違いに悩む企業の人事担当者は多いのではないでしょうか。
両制度は外国人労働者の受け入れという点では共通していますが、目的や対象職種、在留期間など、重要な違いがいくつもあります。
この記事では、育成就労制度と技能実習制度の違いを徹底的に比較し、それぞれの制度のメリット・デメリットや申請方法についても詳しく解説します。
外国人雇用を検討中の企業はもちろん、すでに外国人材を受け入れている企業の方も、ぜひ参考にしてください。
(株)アルフォース・ワン 代表取締役
山根 謙生(やまね けんしょう)
日本人、外国人含め「300社・5,000件」以上の採用支援実績。自社でも監理団体(兼 登録支援機関)に所属し、技能実習生・特定技能外国人の採用に取り組んでいる。外国人雇用労務士・外国人雇用管理主任者資格保有。(一社)外国人雇用協議会所属。
育成就労制度と技能実習制度の主な違い
育成就労制度と技能実習制度は、ともに外国人労働者の受け入れを目的とした制度ですが、いくつかの重要な違いがあります。
ここでは、その主な違いについて詳しく見ていきましょう。
受入れ対象職種
育成就労制度の受入れ対象職種は、特定技能と同一の分野に限定されており、産業分類の合致が必要です。
一方、技能実習制度は、90職種165作業とより広範囲の職種で受け入れが可能となっています。
在留期間と移行条件
育成就労制度の基本的な在留期間は3年であり、受入れ前にはN5レベルの日本語能力が求められます。
受入れ後1年以内に技能検定基礎級の合格が必要です。相当な理由(試験に落ちる等)があれば最大1年延長可能です。
特定技能1号への移行には、日本語能力A2(N4)と技能検定3級または特定技能1号評価試験の合格が条件となります。
特定技能2号への移行には、日本語能力B1(N3)と技能検定1級または特定技能2号評価試験の合格が必要です。
一方、技能実習制度の在留期間は最大5年で、受入れ前に6ヶ月以上または360時間以上の講習が必要です。
技能実習2号への移行には技能検定基礎級の合格、3号への移行には3級の合格が条件となります。
転職・転籍の可否
育成就労制度では、同一企業で1年以上就労した後、転職が可能です。
ただし、技能検定基礎級の合格、日本語能力N5相当以上、転籍先の適切性などの条件があります。
一方、技能実習制度では、原則として転職・転籍は認められていません。
日本語能力要件
育成就労制度では、受入れ前のN5レベルから始まり、段階的な日本語能力の向上が求められています。
特定技能1号、2号への移行には、それぞれ一定の日本語能力が条件となっています。
技能実習制度では、日本語能力について特に規定はありません。
特定技能への移行パス
育成就労制度は、特定技能1号への移行を前提とした制度設計となっています。
一方、技能実習制度には、特定技能への直接的な移行パスは用意されていません。
以上のように、育成就労制度と技能実習制度には、受入れ対象職種、在留期間、転職の可否、日本語能力要件、特定技能への移行パスなどに明確な違いがあります。
これらの違いは、育成就労制度が日本国内の人材ニーズにより焦点を当て、外国人労働者のキャリアパスと権利保護にも配慮した設計となっていることを示しています。
育成就労制度 | 技能実習制度 | |
---|---|---|
受入れ対象職種 | 特定技能と同一分野 | 90職種165作業 |
在留期間 | 基本3年(最大1年延長可) | 最大5年 |
転職・転籍 | 条件付きで可能 | 原則不可 |
日本語能力要件 | 段階的な向上を要求 | 特に規定なし |
特定技能への移行 | 移行を前提とした制度設計 | 直接的な移行パスなし |
育成就労制度のメリット
育成就労制度には、企業、外国人労働者、そして日本社会にとって多くのメリットがあります。
ここでは、それぞれの立場から見た育成就労制度の利点について詳しく解説します。
受入れ企業にとってのメリット
育成就労制度は、企業にとって大きな魅力となる制度です。
まず、この制度の導入により、人材不足に悩む企業が必要な労働力を確保しやすくなります。
特に、特定技能の対象職種と同一分野での外国人材の受け入れが可能になるため、より専門性の高い人材を獲得できるでしょう。
また、育成就労制度では、外国人労働者の日本語能力向上や技能習得を支援する仕組みが整っています。
これにより、企業は即戦力となる人材を育成しながら長期的な視点で外国人材を活用できます。
加えて、一定の条件を満たせば、外国人労働者の転職・転籍も可能になるため、柔軟な人材活用が期待できるでしょう。
外国人労働者にとってのメリット
外国人労働者にとっても、育成就労制度はメリットの多い制度と言えます。まず、この制度では、日本語教育と技能習得の機会が提供されます。
日本語能力の向上は、日本での生活の質を高めるだけでなく、将来のキャリアアップにもつながります。また、技能検定の取得は、自身のスキルを客観的に証明できる手段となるでしょう。
さらに、育成就労制度では、特定技能への移行を前提とした設計になっています。
つまり、一定の条件を満たせば、より安定的な在留資格である特定技能1号や2号に移行できる可能性があるのです。これは、外国人労働者にとって大きなモチベーションになるはずです。
日本社会にとってのメリット
育成就労制度は、日本社会全体にもポジティブな影響をもたらします。
まず、この制度の導入により、深刻化する人手不足の問題が緩和されることが期待できます。特に、介護や農業など、労働力の確保が難しい分野での効果は大きいでしょう。
また、育成就労制度では、日本語教育と技能習得が重視されています。
これは、外国人労働者の日本社会への適応を促進し、多文化共生社会の実現に寄与します。お互いの文化を理解し、尊重し合える社会の構築は、日本の国際化にとって欠かせない要素です。
加えて、育成就労制度を通じて育成された外国人材が、将来的に母国と日本の架け橋となることも期待できます。
彼らが習得した知識や技術を母国の発展に活かすことで、日本との友好関係の強化にもつながるでしょう。
育成就労制度のデメリット
育成就労制度は、外国人材の受入れと育成に新たな選択肢をもたらしますが、同時にいくつかの課題や留意点も存在します。
ここでは、育成就労制度のデメリットについて詳しく見ていきましょう。
制度運用の課題と留意点
育成就労制度の運用にあたっては、いくつかの課題と留意点があります。
まず、特定技能と同一分野であることが求められるため、受入れ可能な職種が限定される点が挙げられます。
技能実習制度と比べると、育成就労制度では受入れ対象職種が狭くなるため、企業側の需要に合致しない可能性があるのです。
また、育成就労制度では、外国人労働者に対して段階的な日本語能力の向上を要求しています。
これは、特定技能への移行を前提とした制度設計によるものですが、企業側にとっては日本語教育の提供が新たな負担となり得ます。
さらに、育成就労制度では、一定の条件のもとで転職・転籍が認められています。
これは外国人労働者の権利保護の観点から重要な規定ですが、企業側にとっては人材の定着が困難になるリスクがあることも留意が必要でしょう。
企業側の負担と責任
育成就労制度の導入により、企業側の負担と責任も大きくなります。
特に、日本語教育の提供は企業にとって新たな負担となります。
N5レベルから始まり、特定技能2号移行時にはN3レベルが要求されるなど、段階的な日本語能力の向上が求められるため、計画的な日本語教育の実施が不可欠です。
また、外国人労働者の生活面でのサポートも企業の重要な責務となります。
住居の確保や生活上の諸手続きの支援など、外国人材が日本で円滑に生活できるようにバックアップする必要があります。
加えて、外国人労働者の労働環境の整備も欠かせません。
労働関連法規の遵守はもちろん、外国人材の文化的背景に配慮した職場環境の構築も求められるでしょう。
外国人労働者の保護と支援体制
育成就労制度では、外国人労働者の保護と支援体制の構築が重要な論点となります。
現行の外国人技能実習機構を改組し、新たな機構を設立することが予定されています。
この新機構は、育成就労制度における外国人材の保護と支援を担う中核的な存在となるでしょう。
また、出入国在留管理局や労働基準監督署との連携強化も不可欠です。
これらの機関との緊密な連携により、外国人労働者の権利が適切に保護されることが期待されます。
ただし、支援体制の構築には一定の時間を要することが予想されます。
育成就労制度の導入初期段階では、十分な支援が提供できない可能性も考慮しておく必要があるでしょう。
育成就労制度は、外国人材の受入れと育成に新たな道を開く画期的な制度ですが、同時に克服すべき課題も少なくありません。
制度の適切な運用と外国人労働者の保護・支援に向けて、官民挙げての取り組みが求められています。
技能実習制度のメリット
技能実習制度には、企業にとって様々なメリットがあります。
ここでは、その主要な3つのメリットについて詳しく見ていきましょう。
国際貢献としての意義
技能実習制度は、開発途上国の経済発展を担う「人づくり」に貢献する国際協力事業としての側面を持っています。
日本で培った高度な技術・技能を開発途上国の人材に移転することで、その国の産業発展に寄与できるのです。
この国際貢献の取り組みは、企業の社会的責任(CSR)の一環としても重要な意味を持ちます。
グローバル化が進む現代社会において、国際社会への貢献は企業価値向上に直結すると言えるでしょう。
企業にとっての労働力確保
少子高齢化が進む日本では、多くの企業が人手不足に悩まされています。
その解決策の一つとして、外国人材の活用が注目されており、技能実習制度はその重要な受け皿となっています。
特に、製造業や農業、建設業、介護業など、人手不足が深刻な業種では、技能実習生の存在は欠かせません。
彼らの若い力は、企業の生産性向上と事業継続に大きく貢献しているのです。
技能移転による開発途上国支援
技能実習制度の目的は、単なる労働力の確保ではありません。
日本の高度な技術・技能を開発途上国の人材に移転し、その国の産業発展を支援することが重要な使命となっています。
実習生は、日本での実践的な訓練を通じて専門的な知識とスキルを身につけ、帰国後はその技能を活かして母国の発展に貢献します。
この技能移転のプロセスは、開発途上国の自立的な経済成長を促す上で極めて重要な役割を果たしているのです。
技能実習制度のデメリット
技能実習制度には、いくつかの課題や問題点が指摘されています。
ここでは、技能実習制度のデメリットについて詳しく見ていきましょう。
労働搾取や人権侵害の問題
技能実習生の中には、長時間労働や低賃金などの過酷な労働環境に置かれている人も少なくありません。
労働基準法違反や最低賃金法違反などの事例も報告されており、労働搾取や人権侵害の問題が懸念されています。
また、パスポートの取り上げや行動の制限など、実習生の自由を奪う行為も一部で行われています。
こうした状況は、技能実習制度の本来の目的である国際貢献や技術移転とは程遠いものです。
制度の悪用と不正行為
技能実習制度を悪用し、実態は単純労働者の確保に利用している受入れ機関も存在します。
技能実習計画と実際の業務内容が乖離していたり、職種外の作業に従事させられたりするケースも見られます。
さらに、実習生の賃金から多額の管理費や手数料を差し引くなど、不当な金銭搾取も問題視されています。
こうした不正行為は、技能実習制度への信頼を損ねる大きな要因となっています。
外国人実習生の保護と管理の難しさ
外国人実習生は、言語や文化の違いから、自らの権利を主張することが難しい立場にあります。
トラブルが発生した際にも、適切な相談先を見つけられなかったり、解決に至らなかったりするケースが少なくありません。
また、受入れ機関による実習生の管理体制にも課題があります。
生活面でのサポートや日本語教育が不十分なため、実習生が孤立感を感じたり、地域社会との交流が進まなかったりする状況も見受けられます。
こうした問題は、外国人実習生の保護と適切な管理の難しさを浮き彫りにしています。
以上のように、技能実習制度には様々なデメリットや問題点が存在します。
これらの課題に真摯に向き合い、制度の適正化を図ることが求められています。
同時に、外国人材の受入れにあたっては、育成就労制度など、技能実習制度とは異なるアプローチも検討する必要があるでしょう。
育成就労制度の申請方法
育成就労制度の申請方法について、詳しく見ていきましょう。
申請の流れや必要書類、受入れ機関の要件と責務、申請のポイントと注意点を順に解説します。
申請の流れと必要書類
育成就労制度の申請は、受入れ機関が主体となって行います。
まずは、受入れ機関が外国人を受け入れる適格性を有しているかを確認する必要があります。
適格性が確認できたら、以下の書類を揃えて申請を行います。
- 受入れ機関の登録申請書
- 外国人の在留資格認定証明書交付申請書
- 受入れ機関の概要書
- 受入れ計画書
- 外国人の履歴書、学歴・職歴証明書
- 外国人の日本語能力を証明する書類(N5以上)
これらの書類を地方出入国在留管理局に提出し、審査を受けます。
審査に通過すれば、外国人の在留資格認定証明書が交付されます。
この証明書を基に、外国人が現地の日本大使館・領事館でビザを取得し、来日することになります。
受入れ機関の要件と責務
育成就労制度で外国人を受け入れるには、受入れ機関として一定の要件を満たす必要があります。
主な要件は以下の通りです。
- 外国人の育成計画を適切に策定・実施できること
- 外国人の報酬を適切に支払える財政基盤があること
- 過去5年間に出入国又は労働に関する法令に違反していないこと
- 外国人の生活面のサポートができる体制が整っていること
また、受入れ機関には外国人の育成と保護に関する責務が課せられます。
外国人が日本語能力や技能を着実に向上させられるよう、計画的な OJT や Off-JT の実施が求められます。加えて、外国人の生活面での相談にも真摯に対応する必要があります。
申請のポイントと注意点
育成就労制度の申請では、いくつかのポイントと注意点があります。
まず、書類の不備や記載ミスがないよう、十分に確認してから提出することが大切です。特に、受入れ計画書は審査の重要なポイントになるため、外国人の育成方針を具体的かつ説得力をもって記載しましょう。
また、審査には一定の時間がかかることを念頭に、余裕をもって申請の準備を進めることをおすすめします。
申請が認められるまでは外国人を受け入れることはできませんので、スケジュール管理には十分に気をつけましょう。
最後に、申請後も受入れ機関としての適格性を維持し続ける必要があります。
外国人の受入れ状況について定期的に報告を行い、法令を遵守した運用を徹底してください。不適切な受入れが発覚した場合、受入れ機関の資格が取り消されるリスクもあります。
育成就労制度の申請は、一定の手順と準備が必要なプロセスです。
受入れ機関としての要件をしっかりと理解し、外国人の育成に真摯に取り組む姿勢が求められるでしょう。
申請のポイントと注意点を踏まえて、計画的に申請を進めていきましょう。
技能実習制度の申請方法
技能実習制度を利用して外国人を受け入れるには、適切な申請手続きを行う必要があります。
ここでは、申請の流れと必要書類、監理団体と実習実施者の役割、そして申請のポイントと注意点について解説します。
申請の流れと必要書類
技能実習制度の申請は、以下のような流れで進めます。
- 監理団体の設立または既存の監理団体への加入
- 実習実施者(受入れ企業)としての認定申請
- 技能実習計画の作成と申請
- 外国人技能実習生の募集・選考
- 入国手続き(在留資格認定証明書の交付申請など)
申請に必要な主な書類は以下の通りです。
- 実習実施者認定申請書
- 技能実習計画書
- 事業所の登記事項証明書
- 直近の決算報告書
- 実習施設の図面と写真
- 講習担当者の履歴書と資格証明書
これらの書類を準備し、適切に記入・提出することが重要です。
監理団体と実習実施者の役割
技能実習制度では、監理団体と実習実施者がそれぞれ重要な役割を担っています。
監理団体は、技能実習生の保護や適正な実習の実施を監督する立場にあります。一方、実習実施者は、技能実習生を直接受け入れ、技能等の修得に係る活動を行わせる主体となります。
監理団体の主な役割は以下の通りです。
- 技能実習計画の作成支援と申請
- 技能実習生の募集・選考の支援
- 実習実施者に対する指導・監督
- 技能実習生の生活面でのサポート
実習実施者の主な役割は以下の通りです。
- 技能実習計画の作成と実施
- 技能実習生への技能等の修得に係る活動の提供
- 適切な労働環境の整備
- 技能実習生の日本での生活支援
監理団体と実習実施者が連携し、それぞれの役割を果たすことが技能実習制度の適正な運用につながります。
申請のポイントと注意点
技能実習制度の申請を行う際は、いくつかのポイントと注意点に留意する必要があります。
まず、実習実施者の要件を満たしていることが重要です。
例えば、過去5年以内に出入国又は労働に関する法令に違反していないことや、技能実習生の人権を侵害する行為を行っていないことなどが求められます。
また、技能実習計画の内容が適切であることも不可欠です。実習の目標、期間、内容、評価方法などを明確に定め、技能実習生の技能等の修得に資する内容となっているかを確認しましょう。
申請書類の記入にあたっては、誤記や記入漏れがないよう細心の注意を払ってください。不備があると申請が受理されない場合があります。
加えて、申請から認定までには一定の時間を要することも念頭に置く必要があります。余裕を持ったスケジュール設定が望ましいでしょう。
これらのポイントを踏まえ、適切な申請を行うことが、技能実習制度を円滑に活用するためのカギとなります。
まとめ
育成就労制度と技能実習制度は、ともに外国人材の受入れを目的としていますが、その目的や運用方法には大きな違いがあります。
育成就労制度は国内の人材不足を補うことを主眼に置き、特定技能への移行を前提とした人材育成に力点を置いています。
一方、技能実習制度は国際貢献と技術移転を主目的とし、開発途上国の人材育成を通じた経済発展に貢献することを目指しています。
両制度の違いは、受入れ対象職種、在留期間、転職の可否、日本語能力要件など、多岐に渡ります。
企業にとっては、育成就労制度が人材不足の解消と即戦力の育成につながるメリットがある一方で、日本語教育の提供や生活面でのサポートなど、新たな負担も生じます。
技能実習制度は、国際貢献としての意義や社会的責任の遂行につながりますが、不適切な運用のリスクにも留意が必要でしょう。
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