介護業界では、深刻な人手不足から、外国人介護士を採用するニーズが高まると同時に、外国人介護士の離職率の高さも問題となってます。
この問題を解決するためには、給与・休日などの就労条件の改善、職場のコミュニケーションの活性化、キャリア支援や能力開発への注力など、外国人介護士が長く働き続けられる職場環境を作ることが大切です。
本記事では、外国人介護士の定着率を上げるための具体的な方法を詳しく解説していきます。
INDEX
(株)アルフォース・ワン 代表取締役
山根 謙生(やまね けんしょう)
日本人、外国人含め「300社・5,000件」以上の採用支援実績。自社でも監理団体(兼 登録支援機関)に所属し、技能実習生・特定技能外国人の採用に取り組んでいる。外国人雇用労務士・外国人雇用管理主任者資格保有。(一社)外国人雇用協議会所属。
外国人介護士の離職の現状
外国人介護士の離職問題は、人手不足が深刻な介護現場にとって大きな課題となっています。
ここでは、外国人介護士の離職率や離職の主な理由、そして離職による介護現場への影響について詳しく見ていきましょう。
外国人介護士の離職率
近年、介護現場では外国人介護士の活躍が目立つようになりました。しかし、同時に外国人介護士の離職率の高さも指摘されています。
出入国在留管理庁が公表している統計資料によると、外国人介護士(特定技能)の離職率は10.6%となっています。
ただでさえ人手不足の状態で、外国人介護士の離職が発生してしまうと、他スタッフへの負担感が上がり連鎖退職が起きてしまったり、サービスの質の低下につながる恐れもあります。
そのため、外国人介護士の定着を図ることは、介護業界全体の喫緊の課題と言えるでしょう。
離職の主な理由
外国人介護士の離職には、様々な理由が存在します。
大きく分けると、就労条件への不満とコミュニケーションの問題の2つが主な理由となっています。
就労条件については、給与への不満や休暇の取りにくさ、長時間労働などが離職につながっています。また、職場の人間関係や施設利用者との関係性も、外国人介護士の従業員満足度に大きく影響します。
コミュニケーションの問題では、日本語能力の不足による意思疎通の難しさや、文化の違いから生じる誤解などが離職の原因となっています。外国人介護士が孤立感・差別感を感じることなく、気持ちよく働き続けられる環境づくりが大切です。
離職による介護現場への影響
外国人介護士の離職は、介護現場に様々な影響を及ぼします。
まず、人手不足がさらに深刻化することで、残されたスタッフの負担が増大します。これは、サービスの質の低下や、介護事故のリスク増加につながりかねません。
また、外国人介護士の頻繁な入れ替わりは、利用者とのコミュニケーションや信頼関係の構築を難しくします。
特に継続的なケアが重要である認知症の方への対応では、担当者の頻繁な変更は大きなストレスを与える可能性があります。
さらに、外国人介護士の教育や研修にかかるコストの問題も無視できません。せっかく時間と労力をかけて育成した人材が離職してしまうことは、施設側にとって大きな損失となるのです。
就労条件の満足度と定着率の関係
外国人介護士の就労条件の満足度と定着率には、密接な関係があることがわかっています。
ここでは、就労条件の満足度が高い場合について見ていきましょう。
就労条件への満足度が高い場合
株式会社NTTデータが調査する「外国人介護士の活動実態に関する調査研究事業報告書(令和6年3月)」によると、外国人介護士は、日本での介護関連就労を継続したいと考える傾向が90%を超えています。
当然ながら、職場への満足度が低い場合では、職種を限定せずに転職先を探す傾向があります。職場への満足度の高さは、外国人介護士の定着率に直結するといえるでしょう。
そのため、介護施設にとって、従業員満足度を高めることは、外国人介護士の定着率向上に直結する重要な取り組みといえます。
就労条件の満足度を高める要素
それでは、外国人介護士の職場への満足度を高めるには、どのような対応が必要なのでしょうか。
主な要素として、以下の6点が挙げられます。
- 適切な給与の支払い
- 職員間の良好な人間関係(相談体制)
- 休日の取りやすさ
- 適切な労働時間と休憩
- スキルアップの研修、教育
- 家族、宗教、生活面への理解、配慮
これらの要素を満たすことで、外国人介護士は自分の働く環境に満足感を感じ、仕事へのモチベーションを高く保つことができます。
給与や勤務体系など、すぐに改善できないものもあると思いますが、職場の良好な人間関係の構築や家族・宗教・生活面への理解・配慮など、すぐに実践できるものは積極的に取り入れていきましょう。外国人介護士にとって大きな支えとなります。
言葉や文化の違いによる困難を乗り越え、一緒に働くメンバーとの信頼関係を築くことは、定着率改善につながる重要なポイントです。
施設からの支援の重要性
外国人介護士の満足度を高めるためには、施設側からの積極的な支援も欠かせません。
具体的には、以下のような取り組みが求められます。
- 介護技能・知識向上の支援
- 日本語学習の支援
- 日本での生活に関する支援
- 定期的な悩み、困りごとの把握
- 地域の日本人・外国人との交流支援
外国人介護士が日本語能力を向上させ、介護の専門知識やスキルを身につけられるよう施設側が積極的にサポートすることが重要です。
また、日本人スタッフとの交流機会を設けたり、外国人介護士の母国の文化を紹介する機会を作ったりすることで、お互いの理解を深め、よりよい職場環境を作り上げることができるでしょう。
コミュニケーション改善による定着率向上
外国人介護士の定着率を上げるためには、職場でのコミュニケーションの改善が欠かせません。
言語面と文化面でのアプローチすること、そして定期的な面談が重要となります。
言語面でのコミュニケーション改善策
外国人介護士と円滑にコミュニケーションを取るためには、言語面での配慮が必要です。
ふりがなを使用したり、簡易な言葉に言い換えたりすることで、伝えたいことが理解しやすくなります。
また、個々の外国人介護士の日本語レベルに応じた指導も重要です。
日本語学習支援を行い、コミュニケーション能力の向上を図ることで、職場での意思疎通がスムーズになり、定着率の向上につながるでしょう。
文化面での相互理解の促進
言語面だけでなく、文化面での相互理解も欠かせません。
日本人との交流機会を設けたり、外国人介護士の自国文化を紹介する機会を作ったりすることで、お互いの文化への理解が深まります。
また、地域との交流機会を創出することも有効です。外国人介護士が地域社会とつながりを持つことで、日本での生活にも馴染みやすくなり、定着率の向上が期待できるでしょう。
定期的な面談の実施
外国人介護士が抱える悩みや不安を早期に発見し解決するためには定期的な面談が有効です。
言語面や文化面、生活面などの困りごとを把握し、適切なサポートを行うことで離職を防ぐことができます。
面談の際は、母国語が分かる通訳を配置するなど、外国人介護士が相談しやすい環境を整えることも大切です。
相互理解を深め、支え合える職場づくりが外国人介護士の定着率向上の鍵となるでしょう。
キャリア支援と能力開発の重要性
外国人介護士の定着率を高めるためには、職場環境を整えるだけでは不十分です。
彼女・彼らのキャリア目標や働く目的を把握し、能力開発・発揮の機会を提供することが重要となります。
外国人介護士のキャリア目標の把握
外国人介護士の中には、日本での長期就労を希望する者もいれば、将来的に母国での就労を目指している者もいます。
採用時に、彼らの来日目的や将来の希望をしっかりとヒアリングすることが大切です。
また、定期的な面談を通じて、外国人介護士の満足度や不安要素を把握し、それぞれのキャリア目標に応じたサポートを行うことが求められます。
個別のニーズに寄り添うことで、仕事へのモチベーションを高め、定着率の向上につなげることができるでしょう。
介護技術・能力向上のための研修提供
外国人介護士の多くは、日本の介護現場に適応するために、介護技術や知識はもちろんのこと、日本語の習得にも努めています。
施設側は、その上達をサポートするため、個別のレベルに応じた社内外での研修プログラムを用意することが重要です。
例えば、介護技術に関する実践的な研修や、介護記録の書き方などの事務的な研修を提供することで、外国人介護士の自信とスキルを高めることができます。
もちろん、日本語学習の支援も欠かせません。コミュニケーション能力の向上は、利用者や同僚との良好な関係構築、スムーズな職務の遂行に役立つでしょう。
日本人介護士との協力体制の構築
外国人介護士が孤立感を感じることなく、チームの一員として活躍するためには、既存の日本人介護士との協力体制が不可欠です。
お互いの文化や価値観の違いを理解し、尊重し合える職場環境を作ることが大切です。
例えば、外国人介護士が自国の文化を紹介する機会を設けたり、日本人介護士との交流会を定期的に開催したりすることで、相互理解を深めることができます。
また、日本人介護士が外国人介護士の良き相談相手となり、サポートする体制を整えることも有効でしょう。
外国人介護士の採用時の留意点
外国人介護士を採用する際には、いくつかの留意点があります。
ここでは、来日目的や将来の希望のヒアリング、在留期間の制限への対応、個別のレベルに応じた指導の必要性について説明します。
来日目的や将来の希望のヒアリング
外国人介護士を採用する際には、まず来日目的や将来の希望をしっかりとヒアリングすることが重要です。
母国での就労を目的として来日している場合や、将来的に母国に帰国したいと考えている場合などは、5年・10年といった長期での就労は難しいでしょう。
一方で、日本での介護職での就労を希望している外国人介護士の場合、職場の満足度が高ければ長期的な定着の可能性が高まります。
採用時のヒアリングで、外国人介護士の希望や目的を把握し、それに合わせた支援を行うことで、定着率の向上につなげることができるでしょう。
在留資格(在留期間)の制限の把握
外国人介護士だけに限りませんが、就労できる在留資格をもって働く外国人には在留期間の制限があります。
その期限を施設側も本人もあいまいな状態のままで在留期間の終了が近づくと、もはや離職が避けられない場合もあり得ます。そのため、在留期間の更新手続きをスムーズに行えるよう、施設側からのサポートが重要となります。
採用時に在留資格・期間を確認することは当然ですが、従業員ごとに在留期間を適切に記録・管理し、定期面談の中でも確認していくなど、ヒューマンエラー的な更新漏れを防ぐ取り組みを実施しましょう。
また、外国人従業員の管理に特化したサービスを活用することも1つの手段です。紙ベースや手作業での管理に自信のない施設では、専用システムを導入しての管理をおすすめします。
個別のレベルに応じた教育・研修
外国人介護士のスキルや日本語能力には個人差が大きいため、一律の指導があまり効果を発揮せず、それぞれのレベルに応じた個別指導が必要です。
日本語学習の支援や、社内外における介護技術・能力向上のための研修など、施設側からの教育・研修の機会提供が重要となります。また、日常的な業務やコミュニケーションの中で指導を行うことも効果的でしょう。
外国人介護士のスキルアップを図ることで、仕事へのモチベーションを高め、定着率の向上につなげることができます。個別のレベルに応じた丁寧な指導が、外国人介護士の活躍の鍵です。
地域との交流促進
日本人の定着率向上の施策と大きく違う点の1つとして、外国人介護士が地域社会と交流し、日本の文化や習慣、地域性を理解することも重要です。
ここでは、外国人介護士と地域住民との交流機会の創出、自国文化を紹介する機会の提供、異文化理解の促進による定着率向上について詳しく見ていきましょう。
外国人介護士と地域住民との交流機会の創出
外国人介護士が地域社会に溶け込むためには、地域住民との交流が欠かせません。
そのため、施設側は、外国人介護士と地域住民が交流できる機会を積極的に設けていきましょう。
具体的には、外国人介護士が地域住民と直接触れ合い、日本の文化や習慣を体験することができるような、地域イベントやお祭りに、一緒に参加することが効果的です。
また、外国人介護士と一緒に地域のボランティア活動に定期的に参加することも、地域交流や人間関係を深める良い機会となります。
自国文化を紹介する機会の提供
外国人介護士が自国の文化を紹介する機会を設けることも、定着率向上に役立ちます。
母国の文化を職場で紹介することで、外国人介護士は自身のアイデンティティを維持しつつ、日本人職員や利用者との相互理解を深めることができるからです。
例えば、施設内で外国人介護士による自国の料理教室や、伝統衣装の試着会などを開催するのも良いでしょう。外国人介護士が講師となって自国の文化を紹介し、日本人職員や利用者との交流を図ることができます。
また、施設内に外国人介護士の出身国に関する展示コーナーを設けるという施策を行っている施設もあります。
異文化理解の促進による定着率向上
外国人介護士が日本の文化を理解し、日本人職員が外国人介護士の文化を理解することは、お互いの協力関係を築く上で非常に重要です。異文化の相互理解が進むことで、コミュニケーションが円滑になり、職員が働きやすい環境が整います。
施設側は、外国人介護士と日本人職員の両方に対して、異文化理解のための機会を定期的に提供しましょう。その際、お互いの文化や価値観の違いを理解し、尊重し合うことの大切さを伝えることが大切です。
また、日常的なコミュニケーションの中でも、お互いの文化背景を意識し、配慮し合うような雰囲気を作っていけることが理想的です。
外国人介護士の定着率向上のための職場環境づくり
外国人介護士の離職率を低減させ、定着率を向上させるためには、働きやすい職場環境を整えることが欠かせません。
ここでは、外国人介護士の定着率アップにつながる職場づくりのポイントについて解説します。
職員間の良好な人間関係の構築
外国人介護士の定着率向上には、職員間の良好な人間関係の構築が最も重要です。
外国人介護士が日本人職員とコミュニケーションを円滑に取れるよう、ふりがなの使用や簡易な言葉への言い換えなどの工夫を実践すると同時に、定期的に外国人介護士の仕事・生活での困りごと・悩みごとを聞き取り、個別のレベルに応じた対応を行うことも大切です。
日本人職員の協力のもと、異文化に理解のある職場作りを促進することで、職場内の人間関係を良好に保つことができます。異文化への理解を促進しつつも、決して腫物に触るような特別扱いをしないことも意識しましょう。
適切な労働条件の整備
日本人職員でも同様ですが、外国人介護士の満足度を高め、定着率を上げるには、適切な労働条件の整備が不可欠です。
まず、能力に見合った適正な給与の支払いを徹底しましょう。適切な労働時間の設定と十分な休憩時間の確保、有給休暇の取得しやすい環境づくりにも注力する必要があります。
外国人労働者ならではの特徴として、残業の少なさを不満として挙げる人も一定数存在します。これは、母国への仕送りや借金の返済などの金銭的な事情を抱えているため、できる限り多くの給料を稼ぎたいという思いからくるものです。
そのため、通常であれば喜ばれる、残業を少なくする、休日を多くするという対応が、不満の種となるケースもあることも頭に入れておきましょう。
個人の事情に寄り添った柔軟な働き方や研修・教育体制、給与・評価制度などにより、外国人介護士のモチベーションや満足度が高まり、長く働き続けてもらえる環境が整います。
外国人介護士のメンタルヘルスケア
私たち日本人が海外で働くことを想像すれば分かりやすいかもしれませんが、異国の地で働いている外国人介護士たちは、言葉や文化の違いから、大きなストレスを抱えがちです。
そのため、外国人介護士のメンタルヘルスケアにも気を配る必要があります。
施設側は、日本語の学習支援はもちろんのこと、日本人職員や、地域住民との交流機会の提供など、外国人介護士が日本での生活に適応できるようサポートすることが重要です。
外国人介護士一人ひとりに寄り添い、働く上での不安や悩みを払拭できる体制を整えましょう。
まとめ
外国人介護士の離職問題は、給与・休日などの就労条件の改善、職場のコミュニケーションの活性化、キャリア支援や能力開発への注力などで改善することができます。
施設側は、適切な給与支払いや休暇取得しやすい環境整備など「働きやすい条件」を整えるとともに、日本語学習や介護技術の教育・研修など、キャリア開発・能力向上をサポートすることも欠かせません。
人間関係の構築に直結するコミュニケーション面では、ふりがなの使用や簡単な言葉への言い換えなど、円滑な意思疎通を図る工夫と、定期面談による、一人ひとりの状況に合わせたきめ細やかな支援を行うことが大切です。また、外国人介護士が、日本人職員や施設利用者、地域社会と関係性を深められるよう、様々な機会を提供することも重要です。
多くの方はお気づきかもしれませんが、これらの外国人介護士に対する職場改善は、外国人介護士のためだけに実施する訳ではなりません。
これらの対応は施設全体の改善にもつながっているため、日本人職員の定着率・満足度向上はもちろんのこと、求人募集をした際の応募数・採用率の向上などにも直結しています。
職場環境の整備を進めて、お互いを尊重し合える職場環境を築くことが、外国人介護士をはじめとした、全従業員の定着につながるでしょう。
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