2026年7月21日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針2026)」を閣議決定しました。
毎年発行される骨太の方針は、政府の中長期的な政策姿勢を示す最重要文書ですが、2026年版における「外国人政策」の記述は、これまでの方向性から決定的な変化を遂げています。
これまでの外国人採用は、深刻な人手不足を背景とした「受け入れ拡大・緩和」が前面に押し出されていました。
しかし、2026年の骨太の方針では、「出入国在留管理の適正化」「不法就労・偽装滞在の防止」「ルールの厳格な運用」が最優先課題として掲げられています。
特に、ホワイトカラー分野で広く活用されている「技術・人文知識・国際業務(技人国)」ビザにおける実態調査の強化や、2027年春に迫る「育成就労制度」の施行に向けた監視体制の整備など、企業の実務に直結する施策が目白押しです。
本記事では、外国人雇用の専門家の視点から、「骨太の方針2026」における政策転換のポイントを分析し、受入企業が取り組むべきコンプライアンス実務と対策について解説します。
INDEX
2026年「骨太の方針」における外国人政策の全貌と決定的な変化
2026年7月21日閣議決定「骨太の方針2026」の位置づけ
例年6月中に閣議決定される骨太の方針ですが、今回の2026年版は7月21日に決定されました。
外国人政策に関しては、第2章「日本の成長力強化と安全・安心の確保」の中の「3.国民の安全・安心の確保」、その傘下にある「(4)外国人政策の推進」として位置づけられています。
政府の方針は、概念的な共生にとどまらず、「一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱に毅然と対応する」という強力な意志表明から始まっています。
2025年版との比較:経済対策から「治安・管理の適正化」へ
前年(2025年)の骨太の方針と2026年版を比較すると、政府の基本スタンスが根本から変化していることが分かります。
| 比較項目 | 2025年「骨太の方針」 | 2026年「骨太の方針」 |
| 基本姿勢 | 「海外活力の取り込みを進めつつ」と記載され、経済政策・成長戦略としての側面を強調 | 全面的に「適正化」を目指す方針へ転換。違法行為・不法滞在への「毅然とした対応」を前面に押す |
| 政策の位置づけ | 共生社会の推進、受入れ環境整備を中心としたポジティブな文脈がメイン | 「国民の安全・安心の確保(治安枠)」の中に配置され、リスク管理の色彩が大幅に強化 |
| 財源と体制 | 在留手数料の見直し等の検討段階 | 手数料引上げやJESTA導入による財源を活用し、入管庁の体制を抜本強化することを明記 |
2025年までは「人手不足を補うための海外活力の活用」という経済的メリットが先行していました。
しかし2026年版では、国民の不満や不公平感に対処するための「不法就労・不法滞在対策」や「制度の適正利用」が最前面に出ています。
外国人政策の「三層構造」と意思決定プロセス
今回の骨太の方針から読み解くべき重要な視点は、政府の外国人政策が以下の「三層構造」で再編・推進されている点です。
| 第1層:治安・管理枠 | 骨太の方針本体 (出入国在留管理の適正化、不法滞在・不法就労対策、在留手数料引上げ、土地利用規制) |
| 第2層:共生・受入環境整備枠 | 「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」 (日本語教育、生活学習プログラム、地域での共生施策、各種相談体制) |
| 第3層:受入規模・制度の根本設計枠 | 有識者会議 + 人口総合戦略 (外国人受入れの基本的な在り方に関する基本方針の策定:2026年度中取りまとめ) |
このように、骨太の方針本体では「管理の厳格化」を担い、受け入れ環境の整備は「総合的対応策」へ委譲、そして受け入れ人数の規模や根本的な制度設計は「有識者会議」へ送るという役割分担が明確化されました。
企業は、治安・管理の枠組みが急激に厳しくなっている現実を前提に採用計画を立てる必要があります。
企業を直撃する主要な「管理強化・運用厳格化」の具体策
「骨太の方針2026」および関連する閣僚会議決定(「総合的対応策」等)において、企業の実務に直接影響を及ぼす具体的な管理強化策が数多く盛り込まれています。
「技術・人文知識・国際業務(技人国)」に対する審査厳格化と立ち入り実態調査
外国人雇用を行う企業にとって最も注視すべきは、ホワイトカラービザの代表格である「技術・人文知識・国際業務(技人国)」に対する運用改定です。
近年、「技人国」の在留資格を持つ外国人が急増する一方で、派遣先等で本来認められていない現業作業(工場のライン作業、レストランの単純接客、清掃など)に従事させている事例が多発し、問題視されていました。
これに対し、政府は急速に対応を進めています。
具体的には、活動の実態に疑義がある企業や派遣先に対し、地方出入国在留管理局の職員が直接勤務先に赴いて現場調査を行う体制が強化されています。
そこで本人の学歴や職歴と実際の業務内容との間に「資格該当性」がないと判断された場合は、不許可処分や在留資格の取り消しが行われます。
さらに、虚偽記載や実態と異なる理由書の提出を防ぐため、在留資格の変更や更新時における申請書類のフォーマットの見直しや、立証資料の厳格化も同時に推進されています。
「書類上だけデスクワークと書いておけば大丈夫」という過去の安易な運用のツケが企業へ回ってくる局面を迎えています。
「不法滞在者ゼロプラン」と不法就労助長罪の摘発強化
2026年5月22日、入管庁は「不法滞在者ゼロプラン〜強力推進パッケージ〜」を公表しました。
これに基づき、不法滞在者のみならず、「不法就労をさせている企業(雇用主)」に対する不法就労助長罪(出入国管理法第73条の2)の摘発が徹底強化されます 。
警察や労働基準監督署と連携した合同摘発、サイバーパトロールによる悪質な求人情報の監視などが予算的裏付けをもって実施されます。
在留期限が切れた外国人をうっかり雇い続けたり、ビザで許可されていない業務を行わせたりした場合、企業側は「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」という極めて重い刑罰に処されるリスクが高まっています。
在留許可手数料の値上げと電子渡航認証(JESTA)の2028年度導入
出入国管理体制を抜本的に強化するための「財源の確保」策も明記されました。
従来、ビザの変更や更新にかかっていた在留許可手数料(収入印紙代)の値上げが検討されており、そこで確保された財源は入管庁の人的・物的体制の強化やDX化へ直接投じられます。
また、短期滞在者の事前スクリーニングを行う日本版電子渡航認証制度(JESTA)についても、2028年度(令和10年度)中の導入に向けた準備が加速しています。
こうした審査のデジタル化(DX)が進むことで、入管側は過去の申請履歴、課税情報、社会保険の加入状況などを一元的に把握できるようになり、書類の不整合や不正が即座に検知される仕組みが整いつつあります。
「経営・管理」「留学」「永住者」などの見直し動向
「技人国」だけでなく、他の主要な在留資格や、外国人雇用に関連する周辺制度についても見直しが盛り込まれています。
まず「経営・管理」ビザでは、ペーパーカンパニーの設立や実態のない事業計画による悪用、さらには不動産投資目的の移住を防ぐため、出資額や事務所の実態審査、独立生計要件の厳格化が進められています。
また「永住者」ビザについても、税金や社会保険料の未納・滞納がある場合の許可取り消しや要件の厳格化といった法改正方針が反映され、運用の適正化が図られています。
さらに、在留資格そのものだけでなく、外国人労働者の就労実務に直接関わる外免切換(外国運転免許の日本免許への切り替え)手続きにおいても、住所確認や知識・技能確認の審査が厳格化されており、運送業や物流業における外国人ドライバーの採用・就労プロセスにも大きな影響を与えています。
2027年「育成就労制度」開始に向けたロードマップとスケジュール
技能実習制度に代わる新たな制度として創設された「育成就労制度」ですが、その円滑な施行に向けた体制整備も骨太方針2026の中で明確に位置づけられています。
今後の政策推進スケジュール(2026年〜2028年)
受入企業や支援機関が押さえておくべき、今後の主要な政策スケジュールは以下の通りです。
| 2026年(令和8年)夏 | ・外国人による土地取得等のルールの骨格取りまとめ(重要土地等調査法の強化) |
| 2026年(令和8年)秋〜冬 | ・外国人政策に関する関係閣僚会議の開催 ・「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」の改訂 |
| 2027年(令和9年)3月中 (2026年度中) |
・有識者会議での議論を経て「外国人の受入れの基本的な在り方に関する基本方針」を取りまとめ・策定 |
| 2027年(令和9年)春 | ・育成就労制度の本格施行(予定) ・監理支援機関(旧監理団体)の外部監査 ・要件厳格化の適用 |
| 2028年(令和10年)4月以降 | ・JESTA(電子渡航認証)の運用開始 ・「日本語・生活学習プログラム(仮称)」の試行開始 |
「外国人の受入れの基本的な在り方に関する基本方針」の意味
2026年度中に有識者会議等を通じて取りまとめられる「基本方針」は、今後の日本における外国人労働者の「受入れ見込数(上限)」や「対象分野の選定基準」を再定義するものです。
これまでは業界団体からの人手不足の要望に応じて枠が設定されていましたが、今後は「国内の人材確保努力」「産業の生産性向上」「地域社会との共生可能性」などを総合的に勘案し、より厳格なコントロール下で受入数が管理されることになります。
「日本語・生活学習プログラム(仮称)」創設と教育の義務化
外国人が日本社会の一員としてルールを守り、定着できるようにするための「日本語教育」も強化されます。
政府は「日本語・生活学習プログラム(仮称)」の創設や、地域でのプレクラス展開、登録日本語教員の処遇改善を推進しています。
今後は単に「働かせる」だけでなく、企業側にも日本語学習の機会提供や生活ルールの教育に対する実務的なコミットメントが強く求められるようになります。
外国人政策の転換によって受入企業が取るべき5つの対策
政策が「管理・適正化」へ大きく舵を切った以上、企業がこれまで通りの曖昧な運用を続ければ、入管の立ち入り調査、ビザ不許可、最悪の場合は不法就労助長罪での摘発という致命的なリスクを負うことになります。
企業が今すぐ実施すべき5つの対策を整理しました。
「在留資格」と「現場の実務内容」の完全一致確認
社内で雇用しているすべての外国人社員(正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト含む)について、「在留カードに記載された資格」と「今日、現場で行っている具体的な作業」が一致しているかを精査してください。
契約上は「翻訳・通訳」や「施工管理」だが、実際は工場の梱包ライン作業、店舗の配膳、現場の単なる作業員として従事させている。
◆NG例②:特定技能
指定された分野(例:外食業)以外の業務(例:別部門の清掃作業や事務作業)を主たる業務として行わせている。
実態調査が入った際、業務日報やシフト表、防犯カメラの映像などから実務内容が確認されます。
書類上の名目ではなく、実態で審査されることを強く認識してください。
派遣・請負形態での「偽装就労」「資格外活動」の完全排除
自社で直接雇用している外国人だけでなく、派遣会社から受け入れている外国人、あるいは下請け企業(請負)の作業員についても注意が必要です。
特に「技人国」の派遣労働者を受け入れている企業に対し、入管庁は派遣先での実際の活動内容に関する調査を強めています。
派遣元が「このビザで問題ない」と言っていても、派遣先の現場で違法な現業作業を行わせていれば、派遣先企業も「不法就労助長罪」の共犯や指示役として法的責任を問われる可能性があります。
派遣元・請負元に対し、在留カードの原本確認と、ビザの該当性を立証する書類の提示を求める体制を構築してください。
雇用状況届出・在留期限・変更届の期限管理の徹底
ハローワークへの「外国人雇用状況の届出(採用時および離職時の翌月末日まで)」の漏れや、在留期限の徒過(オーバーステイ)は、企業側の過失として厳しく処罰されます。
特に近年の審査厳格化に伴い、追加資料の提出を求められるケースが増え、審査期間自体が長期化しています。
そのため、期限ギリギリの申請は避け、在留期限の3ヶ月前から更新準備を開始する社内ルールを徹底する必要があります。
さらに、社内での部署異動や職種、勤務地の変更が発生した場合にも、14日以内に入管へ「所属機関に関する届出」を行う義務があるため、現場と人事の連携による迅速な期限管理体制が不可欠です。
2027年移行を見据えた「監理支援機関」「登録支援機関」の選定
2027年の育成就労制度施行に伴い、技能実習の監理団体は「監理支援機関」へと改組されます。
また、特定技能を支える「登録支援機関」についても、定期報告や支援の履行に対する行政のチェックが一段と厳しくなっています。
安さだけを売りにし、支援や面談を怠る名義貸し同然の悪質な支援機関と契約している企業は、連帯して行政指導や受入停止処分の対象となります。
そのため、以下のような基準を満たす「優良なパートナー」への乗り換えや選定を、今から進めておく必要があります。
・母国語でのトラブル対応体制(通訳スタッフの常駐)が整っているか
・最新の法改正(骨太方針や入管運用要領)を把握し、コンプライアンスの助言ができるか
・定期面談や届出を法通りに確実に実施しているか
行政書士・弁護士等による事前コンプライアンス診断
自社のみで複雑化する入管法や関連省令を100%追及するのは実務上困難です。
申請取次資格を持つ行政書士や、外国人雇用に精通した弁護士・社労士などの専門家を活用し、定期的に外国人雇用のコンプライアンス診断を受けることを推奨します。
事前に申請書類の理由書や雇用契約書、実際の業務フローをプロの目でスクリーニングしてもらうことで、入管からの立ち入り調査や不許可リスクを完全に防ぎきることができます。
【FAQ】骨太方針2026と外国人採用に関するよくある質問
Q1. 「技人国」ビザの審査期間や難易度はどのように変わりますか?
A. 審査期間は長期化し、実態の立証を求める難易度は確実に高まります。
骨太方針2026に基づき、入管庁は「資格該当性がない業務への従事」を強く警戒しています。
今後は、単に卒業証明書や雇用契約書を提出するだけでなく、企業の事業計画書、組織図、具体的な1日のスケジュール表など、「なぜその外国人でなければならないのか」「本当にデスクワークや専門業務が存在するのか」を裏付ける追加資料を求められるケースが増加します。
Q2. もし入管の実態調査が来た場合、企業はどう対応すべきですか?
A. 隠蔽や虚偽の説明は絶対に避け、ありのままの勤務実態と書類を提示してください。
実態調査で申請内容と異なる現業作業(ライン作業等)を行わせていることが発覚した場合、言い逃れはできません。
虚偽の説明をした場合、悪質とみなされて不法就労助長罪での立件や、今後の外国人の受け入れ停止処分に直結します。
万が一、現在の業務に不安がある場合は、調査が入る前に専門家へ相談し、適正なビザへの変更や業務内容の見直しを自主的に行う必要があります。
Q3. 「不法就労助長罪」に問われないために企業が最低限やるべき確認は何ですか?
A. 採用時の「在留カード原本の確認(裏面含む)」と「就労不可の文字がないかの確認」の徹底です。
コピーではなく必ず「原本」を確認し、在留カード失効情報照会アプリ等で偽造でないかをチェックしてください。
また、裏面の資格外活動許可の有無、在留資格ごとの就労制限(例:留学生は週28時間以内、風俗営業の禁止など)を遵守させることが絶対条件です。
まとめ:コンプライアンス遵守こそが外国人採用の最大ノウハウ
「骨太の方針2026」が示した未来は、決して「外国人雇用の全面停止」ではありません。
政府が目指しているのは、ルールを守らない悪質な企業や不法滞在者を排除し、法令を正しく守る健全な企業と適法に働く外国人だけが残る「秩序ある共生社会」の構築です。
制度の隙間を突くような不適正な雇用を行ってきた企業が淘汰されていく一方で、早い段階からコンプライアンス体制を整え、在留資格と実務を完全に一致させてきたホワイト企業にとっては、優秀な外国人人材を独占・定着させられる大きなチャンスとなります。
2026年秋以降の「厳格審査時代」を勝ち抜くために、今一度自社の受け入れ態勢を総点検し確実なコンプライアンス経営へと舵を切ってください。
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